犯罪者と同姓同名、嫌な企画名である。全然関係ないところから来る二次的な被害という感じだし、ともすると本当は本人だけど同姓同名だよ、と嘘ついているみたいに思える。サイコパス。怖い。企画したのは日本のハードコアバンドkillieである。killieはとても有名なバンドで名前を知っている人は多いと思う。私もそれこそ何年か前から気になっているがこのライブまで直接でも音源でも聞いたことがなかった。というのもこのバンドのリリースした音源は全て今や非常に希少なものとなっている。まず枚数が少ないし、ほとんどライブ会場でしか売らない。リリースのやり方も凝っていて非常に凝ったDIYなアートワークを施し、聞いた話だがコンクリートでラッッピングした音源もあるとか。聞くためにはコンクリートを破砕しないといけないのだ。(壊すと果たして音源は無事なのだろうか?)最近はライブの数も多くないみたいで、そう言った意味でも伝説的なバンドなのだ。そんな孤高のバンドがなんとSWARRRMとスプリット、「耐え忍び、霞を喰らう」をリリースして、おまけにリリースパーティもやるというのでこれを逃す手はないとばかりにのそのそアースダムに向かったのである。
Nepenthes
一番手はNepenthes。日本のドゥームメタルバンドで、元Church of Miseryの根岸さんがボーカルをつとめるバンド。このバンドも見るのは初めてだった。全員上背があり、ボーカルとギターの二人はタイトなシャツにベルボドムのパンツをぴっちり来ていてかっこいい。多くの方がNepenthesはロックだ!と賞賛の声をあげるのがこの日分かったと思う。非常にオールドスクールなタイプのビンテージ感溢れるドゥームロックを現代的な轟音でアップデートしているもの。1曲目は隙間の空いたいかにもドゥームなリフをほとんど同じリズムで程よい遅さで延々繰り出していくもの。程よい隙間があるので重たいものの閉塞感がなく気持ちが良い。ロック感溢れるギターソロも非常にきらびやかでここら辺がロックだと言われる由縁の一端か。一発めで持っていかれる。根岸さんはにこやかでユーモアもあるが、ちょっと鬼気迫る感じがしてなんなら怖い。ロックスター的な佇まいを持った人だと思う。2曲目は打って変わってバンドの持つロックンロールのサイドを全開にした曲。ここで気づくのだが、演奏が非常にかっちりしている。1曲めは特に隙間がある分アンサンブルがずれだしたら目も当てられないがそんなことは全然なく終始タイトだった。そして思った、ギターのリフがめちゃかっこいい。確かにロックだというのもわかるが、このリフへのこだわりは(ヘヴィー)メタルかもしれないぞ!とワクワクした。(メタルはリフが凝ったものだと思っている節があるので。)ただメタル特有のこだわりの強すぎる感じはあまりしないので、メタルの技術でロックの鷹揚さの話術で饒舌に語っているのかもしれない。一番手にはもってこいのバンドだと思った。
Wrench
続いてはWrench。前にマイナーリーグとのツーマンを見たから多分2回めだと思う。結成25年を迎えるバンドで調べたらなんとToday is the Dayとスプリットを出したこともあるみたい!中高生くらいの時から知っていてその時はモダンヘヴィネスなバンドかなと思っていたのだが(実際初めはミクスチャーっぽいハードコアだったとのこと)、この間見たらすごい印象の違う音を出していた。今日はじっくり見て見ようという気持ち。まずはメンバー4人どれも機材の量が多い。ギタリスト、ベーシストはどれ踏むのか覚えていられるのか?というくらいのエフェクター類。ドラムの人はThink Tankのメンバーとヒップホップユニットを組んでBlack Smokerからリリースしているくらい幅のある人でやはり通常のドラムセットに電子ドラム?を追加でどんと置いている。ボーカルはシンセサイザー、ボコーダー、(見えないので間違っているかも)サンプラーなどを目の前にセット。声を楽器のように使うという表現は珍しくないが、このバンドは本当にそのように声を使っている。空間的な処理をかけた短い発声をさらにエフェクトかけてダブのように反響させていく。この日聞いて思ったのはテクノ的だ!ということ。基本的にどの楽器陣もミニマルにフレーズを繰り返し、神の手がそれぞれを操作するようにON/OFFを切り替えていく。フレーズの重なりが曲を作り、層が増えたり、減ったりしていく。反復の美学と気持ちよさ。もちろんロックのフォーマットでやるから音の数と曲の展開はテクノ寄りあって面白い。非常にタイト。ドラムの手数が多く、シンプルだがずれないリズムを力強く叩いていくスティックの軌道がとにかく美しかった。
SWARRRM
続いては20年以上の歳月をChaos&Grindを掲げ独自の道を模索し続けるこの日もう一つの孤高のバンドでスプリット音源リリースパーティの主役の一人。
ほぼ最低限の4人、機材も少なくアンプも壁際に据えているため急にステージが広く見える。照明もつけっぱなしの飾りっ気のなさ。上半身を脱いだボーカリスト司さんの恐ろしさ。混沌とグラインド、この二つの要素を使うバンドのほとんどが重さと速さの泥沼にはまり込んでいく(もちろんこういった音楽も大好きです)。そんな麻薬的な、つまり強すぎる要素をこのバンドは全く異なるように使っている。目下の最新作Flowerや昨今の各種バンドとのスプリット音源(充実した活動ありがたい)では、叙情的なハードコアというある意味陳腐なフレーズを全く別のアプローチから実現している。その感情の豊かさ、そしてエクストリームな音楽に求められる”凶暴さ”がちっとも損なわれていない凄みを見せつけ、もう全く全く違う場所にバンドが脇目も振らず到達しつつあることを証明しているバンド。ただその音楽だけで20年の重みを見せつけるまさしく孤高のバンド。
重さで塗りつぶさない6本の弦の振動が分離して聞こえるような生々しいギターの音がコード感に溢れるフレーズを奏でる。ドラムはタイトで曲に必ずブラストビートを導入、という厳格なルールを黙々とこなしていく。ベースは本当に驚くのだが、音の数の多さ。それもトレモロ的な秩序立った連符ではなく、空間を時に伸びやかに使って縦横無尽。司さんのボーカルは恐ろしい。前のめりに客席に乗り出して絶叫し、曲によってはそれはただ絶叫にしか聞こえない。言葉がない。感情の塊を吐き出していく。手に巻いたマイクのコードの束が古の剣闘士のように見える。激烈な感情の中心にはでっかい空虚があるような気がする。それが強烈な感情を放射している。感情豊かに見えるのはたくさん持っているのではなく、それが無いから渇望し希求しているからでは、と思った。だから聞いていると感情が高まり、しかし体は透明になってくる気がする。轟音が軽くなった体を突き抜けて揺らしているように思える。この日SWARRRMはアンコールに応え、そういうのは初めて見た。「幸あれ」は本当に阿呆ほど聞いた曲だけど演奏してくれて泣きそうになった。(誇張ではない。)ちなみにフロアの盛り上がりも相当半端なく、アンコールではお祭り状態でした。
killie
いやもうSWARRRMだな、と思っているところにラストkillie。専任ボーカルにギターが二人、ベース、ドラムの5人編成。メンバーはそれぞれラフな格好をしていて自然体。ステージに強烈な光を放つ蛍光灯を5つ壁に沿って設置し、演奏中は他の照明は一切使わない。
意外にも(そういうことは一切しないバンドかと勝手に思っていた)MCから始まり、演奏スタート。出音で持っていくバンドは少ないが、このバンドはそう。ぐえええ、と思わず口走る。ところが何をやっているのかよくわからない。ギュウギュウのおしくらまんじゅうの中で思ったのは「暗い」。この圧倒的な暗さはなんだ。
おそらく曲はなるほど激情と呼ばれる音楽の範疇に入ることはわかる。曲の尺が長く、その中で複雑に展開が変わる(もしかしたら別の曲になっているのかもだが)。ボーカルの頻度はそんな演奏の中で高いわけではなく、高音を利かした絶叫を主体に、ポエトリーリーディングのような歌唱法も取り入れてる。ギターは低音に偏向するのではなく、生音をそれなりに活かしたソリッドな音でそこに空間的なエフェクトを追加している。ソリッドだが後を引くので、そう言った意味ではブラッケンド・ハードコア的な何をしているのかちょっとわかりにくい音像ではあるかもしれない。それでもメタル的なやりすぎ感はなくあくまでもハードコアのフォーマットでやっている。
そしてこのバンドの場合、そのフォーマットで全く明るさや美しさがない。日本の激情お家芸のポストロック的な美麗なアルペジオのアンサンブルや、アンビエントなパートもない。このバンドの静のパートはボーカルがボソボソ喋り続ける中に、楽器陣が思い出したように鉄の塊のような音の塊をゴンゴンぶっこんでくる時間のことだった。いわば(激情的な)華が全くない!その空隙を勢いで埋めてくる。勢いというと言葉は悪いが演奏は非常にソリッドかつタイト。片方のギタリストの人はどうかしている動きをしているのだが、めちゃくちゃミニマルにリフを繰り返して弾きまくっていて怖かった。だるいパートがないので常に何かに急かされているような異常な緊張感、ひりつくような焦燥感がある。呪いで突き動かされているような音楽。照明の照り返しのない真っ暗なフロアも異常な盛り上がりできっと呪いが感染したのだろう(もしくは自らの呪いを認識したのかもしれない)。
MCでは簡潔にしかし力強く自分たちのスタンスを述べた。この地下の密室に何かあると信じている人がいて、その言(これは主に大半が音楽という形でその場にいる人々に流布される)は全く信憑性のあるものだと思った。フラフラで「耐え忍び、霞を喰らう」を買う。killieに関しては特にもう一度以上はライブを見ないといけない気がしている。
この日特に思ったのは音楽はやはり抽象的でそれゆえ感情を表現することに長けている。そしてそれを言語化するのは難しい。この困難はこうやってブログに感想を書くということだけではなく、その場のフロアで突っ立っている時からそう思っていた。特に主役の二つのバンドは色々はみ出しているバンド(孤高と称されることもある)なので特にその傾向は強く、そしてそれゆえ非常に面白かった。4つのバンドで出している音は全部違って、どれも一筋縄ではいかない。とっても楽しかった。
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