2017年5月25日木曜日

中村融編/夜の夢見の川 12の奇妙な物語

アンソロジストである中村融さんの編集したアンソロジー。
以前読んだ「街角の書店 18の奇妙な物語」に続く一冊。と言ってもアンソロジーなので直接的なつながりはなくて、同じコンセプトの第二弾。「街角の書店」が面白かったのと、中村融さんのアンソロジーは何冊か読んでいて全て楽しめていたのと、シオドア・スタージョンの作品が選ばれているので買ってみた次第。
収録作品は以下の通り。(版元様のHPよりコピペ)

  • クリストファー・ファウラー「麻酔」
  • ハーヴィー・ジェイコブズ「バラと手袋」
  • キット・リード「お待ち」
  • フィリス・アイゼンシュタイン「終わりの始まり」
  • エドワード・ブライアント「ハイウェイ漂泊」
  • ケイト・ウィルヘルム「銀の猟犬」
  • シオドア・スタージョン「心臓」
  • フィリップ・ホセ・ファーマー「アケロンの大騒動」
  • ロバート・エイクマン「剣」
  • G・K・チェスタトン「怒りの歩道──悪夢」
  • ヒラリー・ベイリー「イズリントンの犬」
  • カール・エドワード・ワグナー「夜の夢見の川」


「奇妙な味」というのは江戸川乱歩の造語で当初英米のミステリーの何編かの物語を評して使った言葉だという。その後微妙にその意味を拡張しつつ文学界で今でもひっそりと使われているようだ。この本ではそんな「奇妙な味」を持つという視点で色々の中短編が集められている。あとがきに書いてあるのだが、この「奇妙な味」というのはここではジャンルを指す言葉ではないので、いろんなジャンルにまたがってお話が集められている。ミステリーもあれば、スプラッター調の物語もあり、良い意味で趣向がバラバラでそこが魅力。ただ読んでいて思ったのは本格的なファンタジーやSFにカテゴライズされる話は一つもない。あんまり現実から離れた世界を舞台にしたり、荒唐無稽な生物やガジェットが出てくるとそれ自体が”異常”になってしまってなかなか微妙なさじ加減である「奇妙さ」が演出しにくいのだと思う。きっともっと大きいツッコミどころができてしまうのだ。そっちに目がいってしまうから、奇妙な味を演出する場合ほとんど日常を描くことになるのではないかと思う。あたかも明るい歩道に仕掛けられた陥穽にふとしたはずみではまり込んでしまうような、気づくと知らない路地に迷い込んでしまったような、街の喧騒がまだ聞こえるけどちょっと雰囲気がおかしい、そんな雰囲気だ。本格ミステリーとは違ってここでの謎は解決策が提示されるわけではないので、謎がそのまま奇妙な形の影になって読者の内側に張り付いていくことになる。謎が面白いのはそれが解けるからだというのはあるが、解けるまでの過程が面白いということもあって人によってはそちらに重きをおく人もいるのかもしれない。なぜなら未解決の謎がもしもとなって自分の中で新しい物語が始まりだすからだ。そういった意味では無味乾燥な人生を彩るちょっとした味付けとして「奇妙な味」があるというのはなかなか良い。

個人的には動物は喋れないから可愛いと思っているので「イズリントンの犬」はよかった。犬つながりで「銀の猟犬」も良い(この本で一番好きだ)。これは解明されない謎がプレッシャーになりそれを打破する。なんとも後味の悪い決断の果てには一抹以上の物悲しさ、そして損なわれた正気(つまり批難)が提示されるのだが、恐れを超越した動きがあるので実は爽快であると思う。この場合は心の状態と動きを描くのが小説の目的であるので、そのための奇妙な道具たちにその素性の胡乱さを問うのはあまり意味がない。この道具のハマり具合というのが個人的にはすっと整頓されているように思えてそこが非常によかった。

「街角の書店」に比べると短編の数が減ってそのぶん一つあたりのページ数が増えている。より濃厚という意味で良い2冊目。気になっている人はやはり1冊目から手に取るのが良いのかもしれない。

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