日本は東京のパンクバンドの1stアルバム。
2017年に自主リリースされた。
発売されるや否やtwitter上で話題を呼んでいたので視聴したところ「えー!」となって買わない。そのあともう何回か聴いてみたところやはり「えー!」となるので買ってみた。自分の中で良いか悪いかわかんなくても何回か視聴している音源があるならそれは買ってみた方が良い。ちなみにうっかりデジタル版を購入して早くも後悔している。歌詞やアートワークがきになるからだ。
死んだ方がましは2012年に結成された5人組のバンドで「Tokyo Blue Days Punk」を自称している。まず多くの人が言っているようにバンド名が良い。「死んだ方がまし」というのは嫌な気持ちになるが、実は臆病で矛盾している。というのも本当に死んだ方がましだと考えているならその人はすでに死んでいるからだ。つまり死んだ方がましだとうそぶいているか、そう思っていても死に切れない状態にいるということになる。もちろん臆病だし決してかっこよくないが、そんな人は沢山いるのでは?デスメタルだって生きている人が演奏している。そんな複雑な気持を孕んでいる短くて良い言葉だ。ちなみに自主企画の名前は「なしくずしの死」だって!サイコーじゃん。(フランスの作家セリーヌの小説のタイトル。私は序盤のとあるフレーズを定期的に読み返しまくるくらい好き。)
ドイツ語のタイトルは「人、8人の人」となるみたい。調べてみるとどうもホロコーストに関わる言葉のようで過去をいたみ、忘れないための碑に刻まれた文字のようだ。
パンク、ハードコアという単語を聞いた時多くの人は速くて激しい音楽を思い浮かべるだろう。思うにハードコアやパンクに関しては強さを志向する音楽だ。だから音がでかいし、低音が強調されている。往往にして演奏している人たちも怖そうだ。ところがこのバンドはそうではない。バンド名もそうだが、あえてその逆を行く。まず聞いてみんな驚くと思うけど声が高い。異常に高い。グロウル、ガテラルなど低音に行きがちなアングラ音楽にNO!を突きつける。鍛錬されたファルセットというよりは裏声を常に出しているみたいな不安定さ。あまりよろしくない例えかもしれないがDangerousというよりSickなヤバいやつ感がある。ちょうど春だし。歌詞も同じフレーズを繰り返しがちで悪夢というか白昼夢感が増す。物理攻撃というよりは呪い的な、いやらしくヒットポイントを削ってくるタイプ。
演奏の方も重たくはなくてギターは生音を割と活かした音で完全に歪んで潰れた音にない繊細さを持っている。コードやフレーズはキャッチーなのだが、2本のギターのうち一本は痙攣的というかせん妄的に単音をなぞっていき、コードもマイナー感というかなんともいやあな感じである。90年代のヴィジュアル系も引き合いに出されているがなんとなく頷ける。日本的な閉塞感とヘヴィネスに頼らないキャッチーさがあってしっとりとしているのだが、何もその艶っぽさをこっちに使わなくても…という不安定さ。(一方ベースだけは変に無関心で冷徹なのが、嫌な運命的な緊張感と予兆を孕んでいてなんとも好感触である。)
何回か聞いてくると「うお〜」という混乱から抜け出せないものの「硬くなって動かない〜」とか思わず口ずさんでしまう、アクが強いのに妙に脳に引っかかる。初めは特徴的な声がクセになるのかなと思ったけど、実は曲がかっこ良い。日本人的な歌謡感というか、聴きやすさに満ちているのではと思ってきた。短くまとめられた曲は例えば「病気X」は爪弾かれるアルペジオから疾走するイントロだけでもうそのかっこよさに引き込まれるくらい、実はソリッドに練られている。
曲を聞き込んでもやっぱりバンド名が素晴らしいと思う。これは死ねなかった人が死ねなかった人たちに歌っている音楽なのだ。だからかっこよさのオーソリティのレールにはないのだけど(もしくはないからこそ)聴く人の胸を打つ。「やり方がうまいよね」なんて軽薄な言葉とても吐くことができなほどの曲と世界の完成度、そして必死さ。なんとかごまかしごまかし日々を生きている私の胸に急に掴みかかってくるヤバいやつ的な必死さ。かっこいい。こっそりエールを送りたい。
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