夏の蒸し暑さがぶり返した9月17日。
この日はアメリカのパワーバイオレンスバンドACxDCことAntichrist Demoncoreの来日最終日。さらにイタリアのグラインドコアバンドCripple Bastardsの来日の一発目を重ねて来るというまさにエクストリームなイベントが開催された。もはや外タレのライブにしか行かないマンになってしまった私も蔵前を目指したのだった。
ACxDCは解散する事が決まっており前売りもいい感じにはけているとの事。16時スタートで普段だったら余裕の遅刻を決めていくところだが、私はどうしても日本のFriendshipのライブが見たかったので颯爽と(汗だくで)開始時刻に到着。
会場は蔵前「Studio 蔵」。「Kurawood」という名前だったが最近改名したらしい。結構広い四角形(どこにいてもステージがよく見える)の良いライブハウスでした。天井に提灯がつってあるのが下町らしくて良い。
Friendship
本日のトップバッターFriendship。私は彼らの「EP1」、「EP2」を持っているがその音楽はただ「暴虐」。異常にブーストされた暗黒ハードコアをならしている。音が極端にでかいノイズに接近したハードコアというと同じ日本のStruggle for Prideが思い浮かぶ。確かに異常なテンションのブルータルさは共通しているものの、Struggle for Prideハードコアを超越した(”結果的”にクラブシーンにも接近した)ポジティブな前進する力を持っているが、Friendshipはひたすら黒く、ハードコアの基本に忠実のように感じる。
メンバーは思っていたより若く見える、多分私より若いのだろう。しかし音の方は老若男女ぶちたおすハードコアだった。まずはドラムの音がデケエ。ようするに叩く音が非常に強いのだろうがちょっとビックリした。フランスのMonarch!位力一杯。ギター、ベースともに山と詰まれたOrangeアンプの鉄塔から低音がぶわーっとリミッター解除でぶちまけられる。冒頭2曲目位からボーカルがフロアに降りてくる。低音で咆哮する合間合間に客に向かって突っ込んでいく。オーディエンスがボーカルの周りに空間を作る。ここでピットが出来れば恐ろしくも楽しいハードコアのライブなのだが、だれもこのボーカルにぶつかっていく事が出来ない。なんかもう「コイツはヤバい」的な雰囲気が横溢。かかってこいとばかりに一歩も引かないボーカル。その姿たるやまさに孤高。尖りすぎるほどに尖り、私はただただ驚嘆の目を持って彼らを目撃したのだった。普通曲の合間に拍手が起こるもんだが、Friendshipはこの日、演奏が終わるまで拍手は出なかった。演奏とパフォーマンスは最高だった。ただここで拍手すると殺されそうな気がしたのだ(少なくとも私は)。そのくらい緊張感あるライブだった。すごい。上辺の共感すら拒絶する様な一切媚びない攻撃的なハードコア、滅茶苦茶かっこ良かった。このまま尖り続けてほしい。見れて良かった。
Tainted DickMen
続いてはACxDCのツアーの帯同者で福岡のバンドTainted DickMen。「きたないチンコ男達」というものすごいバンド名とチンコを模したギターが特徴。ふざけているのかと言われればふざけているのだろうが、その実力はtwitter界隈では非常に評判が良いので個人的にはどんなバンドなのか気になっていた。3人のメンバーが長髪の佇まいはまさにオールドスクールなメタルを感じさせる。始まってみれば終始テンションの高いスラッシーなグラインドコア。グラインドコアといってもとにかくリフが凝っており、ひょっとしたら異常に加速したスラッシュメタルなんじゃないかと思った。歪みつつもクリアな音質のギターがとにかく!高速で!リフを!刻みまくる!という聴いたら絶対盛り上がる事間違い無しの音楽。フロアのテンションもすごくあがっていた。何と言ってもちょっとしゃがれたわめき声スタイルの高音ボーカルが良かった。ふざけるにしても全力でふざけるのが彼らの流儀なのだろう。カッチリ決まった演奏は途方もない練習を感じさせるが、人当たりは非常に暖かく、そんな雰囲気がフロアにも伝わったのが終始非常にポジティブなライブだった。
Abigail
続いては東京のブラックメタル/スラッシュメタルAbigail。なにげに見るのは2回目か。こちらも長髪にキャップを被ったメタルスタイルで、ならす音はDickMenよりもっとピュアなもの。まさにオールドスクール。ぎゃうぎゃうわめくボーカルはブラックメタルだが、刻みまくるリフはプリミティブ以前のハイブリッドなメタルを感じさせるし、もっといえば非常にスラッシーだ。刻みまくる低音リフに伸びやかに弾きまくるソロのコントラストがシンプルに気持ちよい。アンダーグラウンドなのだが、誰でも乗れる曲が魅力的で結構女性のファンもいるのではないでしょうか。皆さん非常に楽しそうでした。
なんといっても曲を始める前にイーヴィルなボイスで曲名をコールするその美学が個人的にはカッコいい。前回見たときはMC無しだったように思うが、今回はほんのちょっとだけ「アルバムでたのでかってね」があってそこは普通の声になるのが何とも言えずかわいらしかった。
Coffins
続いて東京のデスメタルCoffins。こちらも見るのは何回目か。
低音で這い回るようなデスメタルを演奏するオールドスクール・デスメタルバンド。改めて思ったのはCorruptedの元ボーカルHeviさんに彷彿とさせる極低音ボーカルが歌いすぎないがかっこ良い。曲に緩急を付けるという意味で非常に効果的にかっこよさを煽っている。こうなるとバックの曲で聴かせないと行けない訳なのだけど、ギター、ベース、ドラム各一人というシンプルな構成をものともしない豊かな表現力で持って聴かせる。リフに印象的なテーマがあるのと、それだけではなくてバリエーションが豊富な事。それから曲に展開や速度の緩急を付けることなどで真っ黒い曲の中にも豊かな表情を持たせていると思う。個人的にはドラムがかっこ良くてとくにバスドラに耳を傾けていると、力強い反復的の中にもバリエーションがあってずっと聴いていると催眠をかけられたようにとろーんと気持ちよくなってくる。
このバンドも寡黙な印象があったが、この日はベースのあたけさんが解散するACxDCに対して非常に心のこもったMCを披露して当然フロアも湧く。
Cripple Bastards
続いてイタリアのグラインドコアバンドCripple Bastards。
私は「Your Lies In Check」、「Varinate Alla Morte」しか持ってないくらいのにわかファンで伊達男グラインドコアみせてもらいましょうか〜?位の気持ちで臨んだのだが…
メンバー全員上背があり、さらに体系もしゅっとしているため非常にステージ映えする。こういったバンドではメンバーはとかくアグレッシブに動くものなのだが、このバンドのボーカルGiulio the Bastardは動かない。かっと目を見開き、顔は無表情。そして微動だにしない。マイクを持った両手を顔の上辺りまで持ち上げた様はボクシングのファイティングスタイルのようだ。そういえば彼の髪型は剃り上げたクルーカットだ。思わず「ううう」となるくらい、怖い。
曲が始まってみるとなんかすごいぞ、なんだなんだ、となる。ですぐ分かるのだけどドラムが本当にすごい。こういうバンドは激しく、また速かったりするのでライブでは多少ラフになることもあるし、それも含めて楽しいものだが、このCripple Bastardsのドラム、全くずれていなくないでしょうか?(私が音楽的に素人なのでじっさいはちょっと和kら無いのですが)私の耳には滅茶苦茶正確に聴こえる。「うえええ?」と思って、音に集中すると他の楽器もその正確なドラムに合わせて非常にカッチリしている。機械の様な正確さというのは賞賛と他に、むしろ非人間的な批判として使われる事もあると思うけど、このCripple Bastardsのライブを見ればこの手のジャンルでの恐ろしいまでの正確性が非常にヤバいかっこよさを発生させている事が分かると思う。正確無比に加速減速するブラストビートを聴いてライブ中に鳥肌が立つ私。ここでGiulio the Bastardの動きの謎も解ける訳だ。侍だ!あれはまさに最上段に構えた刀であったのだ。「私の間合いに入れば斬る。」ということだ。勿論実際には刀は持っていないのだけど、このストイックさは本当日本人がはだしで逃げ出す侍ぶりだった。ハードコアの持つ精神的なストイックさが音に見事に表れているのだと思う。波紋波打つ抜き身の日本刀の様な鋭さ、格好良さ。
ちなみにGiulioはその後笑顔を見せる事もあり、ギャップもあって非常に魅力的だった。
来日はここからスタートだと思うので、迷っている人は是非足を運んでいただきたい。
ACxDC(Antichrist Demoncore)
とりは解散が決まっているカリフォルニアのパワーバイオレンスバンドのACxDC。フロアもぎっしり。パワーバイオレンスというのは結構マニアックなジャンルだと思うけど、日本でもこれだけの人が集まるというのはなんか嬉しい。
音楽は激烈だがボーカリストと特にギタリストは(兄弟ですよね?たしかアンコール前のMCでも「My Brother〜」といっていた様な気が。)英国紳士の様なジェントルな佇まいだなと思った。タトゥーはいっているけど。
バンド名にもAntichristと入れたり、アートワークにも山羊をモチーフにしたりとイーヴィルな成分も入っているバンドでブラックメタルの仰々しさは感じられないものの、ハードコアの中にコールタールのようなドス黒い感情をぶちまけており、爆速と停滞を中間無く行ったり来たりするその様はまさに嵐。やはりブラスとぶちかまして一点もの凄く強引にドン!!と落ち込む低速パートがカッコいい。無限に頭が振れる。ボーカルは高音と低音のパートを使い分け、Cripple Bastardsとは違って動きまくり、煽りまくる。「クルクルしろ!」とオーディエンスを煽っていく、必然的に盛り上がるフロアは運動会の様相。サーフも発生して盛り上がりはやはりこの日一番。一体全部で何曲やったのか分からない。
アンコールもえーと3回かな?やってくれた。これから解散という事で2003年に結成して活動し続けたバンドなので思うところは色々あるのだろうけど、湿っぽい雰囲気は皆無でひたすら楽しく、暴れまくるライブであった。色んな人も同じ気持ちだろうが、ただただこんなカッコいいバンドが解散というのは残念。
Cripple Bastardsの最新アルバムと日本公演限定のソノシートを購入して帰宅。
楽しかった。遠くから来日したバンドと招聘してくださった主催者の方々ありがとうございました。
繰り替えにしなるけどCripple Bastardsは軽くグラインドコアの意識を変えてくるくらいすごいので迷っている人は今回の一連の来日公演是非どうぞ。