2016年9月4日日曜日

SUBROSA/For This We Fought the Battle of Ages

アメリカはユタ州ソルトレイクシティのドゥームメタルバンドの4thアルバム。
2016年にProfound Lore Recordsからリリースされた。
前も書いたかもなんだが、このバンドとの出会いはライター行川さんが自身のブログで2ndアルバム「No Help for the Mighty Ones」を紹介していたのが切っ掛け。これを含めて2枚のアルバムは未だに良く聴く。2005年に結成されたバンドで今は5人組。そのうち3人は女性。女性多めのバンドも珍しくはないのだろうが、このバンドでは女性のうち2人がバイオリンを担当しているのが特徴の一つだろうと思う。音楽的にはドゥームメタル。女性でドゥームというとまっさきにJuiciferが思い浮かぶが音楽性は結構異なる。比較的長い(10分越えの曲が多い)尺で、バイオリンを大胆に取り入れた叙情性たっぷりの音楽をやっている。

多分前作からベーシストが変わっていると思うが今回も基本的には前作の延長。少なくとも2ndアルバムからバンドの音楽性はずれていないようだ。
独特の乾いた埃っぽい音像が特徴。曲はだいたい10分を越えてくる。ボーカルの女性はおいくつか分からないのだが、年季の入った声で妖艶というよりは情念たっぷりの呪詛、また逆に語り部の訥々としたような趣もあり、独特。歌い方は色々だがクリーンのみで、たまにバッキングで男性メンバーの咆哮が入る。長い尺を活かした豊かな曲展開が魅力で、重たいギターに女性的なバイオリンの音が非常にフィットしている。メロディをとても大切にしているバンドで、バイオリンは勿論歌も幻想的かつとてもメロディアス。音作りもあってか土臭い雰囲気もあってか、野天の星空の下で薪のそばで語られる昔話の様な懐かしくメランコリックな感情を心中に沸き立たせる。
前作、前々作と何が変わったかというと曲の幅が圧倒的に広がったかと思う。前作までは長居曲の中でもはっきりとパートが別れていて、似た様なテーマを繰り返しつつ曲の中盤で展開をがらりと変えていく、というある意味分かりやすいスタイルだった印象。今作ではその繋がりがとにかくスムーズになっている。滑るように、流れるように、物語性のある曲が刻一刻その形を変容させていく。重苦しいバンドサウンドで圧倒してくるだけでなく、アコギやら独唱を取り入れたりして取り扱っている音の種類も広くなったと思う。インタールード的な4曲目「Il Cappio」に象徴されるように持ち味であるトラッドな雰囲気が倍加されていて、それもあって曲全体が外に向けて開かれている。ラスト「Troubled Cells」はディストーションサウンドを排した優しさあふれる前半から後半音の数を増やし、重なり合う混成ボーカルが劇的で集大成的な曲。内省的だった2ndに比べると結構な変化かもしれない。
あえて不満を述べるとしたら前作の「Ghosts of a Dead Empire」のクライマックスの様なややミニマルっぽいキラーメロディが今のところまだ発見しきれてないかな。ただまだもうちょっと聴き方が足りないと思うし、全体的なクオリティは上がって来ていると思う。

バイオリンの物悲しい音色に導かれるのはやはり暗鬱なストーリーだが説得力のある歌がその物語を圧倒的に美しいものにしている。やはりとてもカッコいいバンドだ。女性が主役で、メタルという男性優位な世界で男性とそのままやり合うのではなく、女性独自のやり方で勝負を仕掛けて来ているのも”強さ”をヒシヒシと感じる。カッコいいぜ。オススメ。

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