2013年9月15日日曜日

チャイナ・ミエヴィル/クラーケン

イングランドの強面作家によるSF・ファンタジー小説。
チャイナ・ミエヴィルは短編集「ジェイクを探して」と優れたSFに与えられる各賞を総なめにした「都市と都市」の2冊を読んだことがある。
他に「ペルディード・ストリート・ステーション」という作品があって、それが気になっていたんだけど、こっちが丁度発売されたので買ってみた次第。

イギリスにある博物館・研究施設ダーウィン・センターでキュレイターを勤めるビリー・ハロウはある日職場の目玉である水槽に入ったダイオウイカがこつ然と消えていることに気づく。イカの全長だけでも8.6メートルある巨大なそれを誰が、どうやって人目につかず運び去ったのか。さらに身の回りで奇妙な出来事が起きるビリーに「原理主義者およびセクト関連犯罪捜査班」、イカを救世主とあがめるカルト教団などが接触してくる。彼らが恐れる「終末」とはなんなのか。ビリーはそれを食い止められるのか。

というお話なんだが、これがなかなか一筋縄ではいかないことになっている。
あらすじだけ追えばSFというよりファンタジーの内容なんだが、読み進めていくと根底の部分の考え方にSFのそれが採用されていることが分かる。分かりやすいSF的なガジェットはほぼ皆無だが(一つ反則的な光線銃がでてくるが…)、間違いなくSF的なアティチュードを持っていると思う。
舞台となるのはイギリス・ロンドンなのだが、普通の一般人ビリーは普通じゃない事件に巻き込まれると、ロンドンの様子が一変する。薄皮のような日常を剝くとそこには怪しげな魔術と魔術師が横行している。近代の魔術というとハリーポッターを思い出す方もいるかもしれないが、あれとはちょっとひと味違う。この作品では魔術はしばしばナックと呼ばれ、確かに超常の技には違いないが、もう少し現実的である。知り合いだと思わせる、落下の衝撃を弱める、モノや人を移動させる、といったような。分かりやすく火が渦巻いて人を襲うような魔術は出てこない。
一般人がふとしたきっかけで変な能力を持った異能人たちの戦いに巻き込まれる、という構図は日本のライトノベルだったりアニメだったりのそれに似ているかもしれない。ふと思ったが、多分結果的には似ても似つかないものになっている。
文字通り超常の技ナック、迫りくる終末、100年以上生きる伝説の残忍な殺し屋、異常な風体の魔術師を束ねる暴力的なリーダー、使い魔たちの労働組合、と様々な要素が後から後からでてくる。兎に角登場人物がみんな個性的で、ふんだんにスラングが含まれた会話が軽妙で面白い。シリアスなんだが妙にふざけておどけたところがあって、結構凄惨な描写が出てくるんだけど、独特の能天気さが救いになっていると思う。
迫りくる「終末」というのが具体的に何なのか?その鍵を握るのが消えたダイオウイカらしいというのだが、具体的にはどのような役割を果たすのかも分からない。主人公ビリーには色々な怪しい人物が接触してくるが、彼らもその実何を考えているのかわからない。読者は主人公ビリーとともにダイオウイカの周りを文字通りぐるぐる右往左往することになる。恐らく作者が意図的に肝心な中心をぼやかして書いているんだと思う。
ものすごい勢いで結末に向けて引っ張られていく感じはあるんだけど、最終目的地が想像できない。ただ恐ろしいことだけは分かる。そういう感覚。
ちなみにラストが素晴らしくて「こうするのか!」と感動。なるほど。正直ちょっと分かりにくいところもあって、目隠しされてジェットコースターにのせられているような気分だったけどラスト読んで納得。

なかなか厄介だけど、最後まで読んでほしい作品。
著者のファンなら気に入ること間違いなしだと思います。

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