言わずと知れたハードボイルドの名作。
作者はイギリスの作家ギャビン・ライアルで空軍で働いた経歴を生かして作家デビュー。残念ながら2003年に逝去。
本作は1965年に発表され、日本では1967年に発売。私が買ったのは何と42版であるから、いかに長きにわたって愛され読まれている作品だということが分かる。
まずタイトルが格好いいだろう。「深夜プラス1」である。原題は「Midnight Plus 1」である。そのまま「ミッドナイトプラス1」でもいいね。
ちなみに表紙に「Psycho-Pass」というアニメ作品の帯がついている。作品内で言及されたのかな?見たことがないけど「紙の本を読みなよ」とキャッチコピーはいいね。
1960年代、フランスでビジネス・エージェントを務めるルイス・ケインはかつてカントンの名でレジスタンスの一員として戦った経歴があった。
そんな彼の元にレジスタンス時代の仲間で今は弁護士のアンリ・メルランからとある富豪をリヒテンシュタインまで送り届けてほしいと依頼を受ける。富豪の名前はマガンハルト。国際法を利用して巧みに税金逃れをし財を成した実業家で、現在フランス国内では婦女暴行の容疑をかけられ警察に追われている。さらには彼がリヒテンシュタインに向かうことで害を被るであろう何者かにその命を狙われている。
依頼を受けたケインはそんな八方ふさがりの状況の中でアル中のガンマン、ハーヴェイ・ロヴェル、マガンハルト、その秘書ヘレン・ジャーマンの4人でフランスを脱出、リヒテンシュタインを目指そうとするのだが…
ハードボイルドである。冒険活劇でもある。
このジャンルをあまりよく読んでない私が語るのも変な話だが、ハードボイルドはよくいわれるように男の世界だと思う。銃と暴力の話だというのは少し違う。それも大変重要な要素ではあると思うが。ハードボイルドの世界は普通の世界とはちょっと違う。ハードボイルドの世界のルールというのがあって、登場人物はみんなその世界の言葉で喋るようなイメージがある。なんというか、主人公が一人ハードボイルドなのではない。登場人物全員が男であろうが女であろうが、ハードボイルドの文脈で語るような印象がある。(私の印象であるから、違う違うという人もいると思うがご容赦願いたい。)
だから哲学のような物があって(哲学がない本があるのか?と思うのだけど。)、主人公は銃を握って敵に相対しても敵のもっと後ろの、遠くの方を見ているような、そういう雰囲気がある。基本的にドンパチはやるくせに、多分に内省的である。あえていうならば独りよがりでもある。
この物語は後半のとあるシーンではっきりと明記されているように、男がどうやって生きるか?という話である。男の登場人物はそれぞれ皆問題を抱えている。マガンハルトは言わずもがな、ハーヴェイには人を殺すことの罪悪感からアルコール中毒に陥っている。ケインは自分でもうまくやれていると思っているけど、実はレジスタンス時代から、カントンだった時代から自分は何も変わってないかもしれないと思っている。うまく立ち回っているようだけど、結局は銃(古くさいモーゼル)を片手に大立ち回りを演じている。
言って見ればみんないい年になっているのに、一体どうやって生きたらいいのか分からない。結局はずっと変わらずに、昔のやり方でもって今まで来てしまったような気がする。
「そういうセンチメンタルな要素はないのだ。殺すために来た。それだけだ。自分が死ぬ可能性が少しでもあったら、彼らは初めから来ちゃいない。」
作中のケインの台詞である。しかし逆説的に彼らはとてもセンチメンタルのように思えた。ナイーブといってもいいかも。不器用なのだ。
ライアルはこだわりの強い人だったらしく、兎に角出てくるアイテムがオシャレでかっこいい。そして何より会話が醍醐味だと思う。ちょっとかっこ良すぎるくらいなのだが、ハードボイルドの文脈で書かれているから不思議とすっと入ってくる。小気味よくてこちらもオシャレといってもいいくらいなのだが、やはりどこかに寂しさやあきらめのような感情があって、それがとじ括弧の後に反響している。空虚だ。
ハーヴェイは強いけど、同時に分かりやすく弱い。それが彼を愛嬌のある人にしているけど、主人公のケインは弱さを見せないから一番孤独である。いわばハードボイルドの体現者なのだ。男からしたら格好よすぎて鼻血が出る。彼は最後の竜に出会うまで戦い続けるのだろうか。
なんだか小難しく書いてしまったが、この物語は一流の冒険活劇でもある。
銃を片手にだんだんと迫ってくる包囲網をいかにしてくぐり抜けるのか。
特に考え込まなくたってページをめくるだけで楽しい。
そうしてかっこいい。
沢山の人に愛されている物語です。
あなたが男でまだこの本を読んだことがないのならば、手に取って間違いはない。
超オススメ。
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