ジェームズ・ロリンズによるシグマ・フォースシリーズ第2弾。
タイトルかわ分かると思いますが、今作はナチ絡み。
今回も歴史に科学にアクション。
ペンタゴンDARPA直轄部隊シグマ。優秀な兵士を科学者に仕立て上げた極秘の特殊部隊である。そのシグマの隊員グレイはデンマークのコペンハーゲンで危険のないと思われていた古文書のオークションの調査任務で命を狙われる。
一方ネパール奥地の僧院ではシグマの隊長ペインターが記憶を失い、謎の武装組織のとらわれ人に。
さらに南アフリカ共和国の自然保護区ではズールー族の監視員とカミシとケンブリッジ大卒の研究者ドクターマルシアが現地の伝説の<死神>ウクファとおぼしき生物に襲われる。
一見バラバラに見えたこれらの出来事はやがて一つの大きな流れに収斂していく。その背後にはヒムラー率いるナチの秘密組織の影が…歴史の影に隠匿された「釣鐘」計画とは何なのか…
今回も盛りだくさん。
原題は「Black Order」で、それというのは悪名高いナチの研究機関アーネンエルベ(日本の漫画とかで結構出てくるよね。)の創立者ハインリヒ・ヒムラーの私設部隊の名前だそうだ。ヒムラーといえばオカルトに傾倒したことが有名だが、今作でもとあるルーン文字の謎の解明が大きな役割を果たしている。
さらに第二次世界大戦終結のどさくさでなぞのまま消えてしまった研究その名も「釣鐘」が物語の中心に控えていて、その周辺(といっても正解各国だからスケールがでかい。)で様々な怪異が発生、シグマの面々がこれに対応することになる。一見どう考えても説明のつかない特異な現象を、兵士であり科学者でもあるシグマの隊員が科学の面から解決していくというスタイルは前作と変わらず。今回は量子学である。こらまたSFをはじめ様々なフィクションで扱われる学問であるが、この本ではアインシュタインの相対性理論と対をなす「もう一つの科学」としてのこの学問にスポットライトが当てられている。
作中でも語られているが量子学というのは一番有名なのはシューレディンガー(シュレディンガー)の猫ではないだろうか。こらまた日本のフィクションでよく出てくる単語である。外からは中身が確認できない箱の中に猫を入れて、2分の1で致死性の毒ガスが流れるようにする。この場合猫が果たして生きているか死んでいるかはふたを開けてみないと分からない。ここまでは普通なのだが、箱を開ける前の猫というのは半分死んでいて半分生きている。(生きているし、同時に死んでいる状態。)ふたを開けることでその生死が確定されるというもの。科学というより哲学である。通常の物語だとここまでしか説明がされないのだが、この本ではさらにその先が突き詰められている。実は事前にこの本を読んだ人から「量子学がすごいことになっていますよ」と聞いていたのだが、いや本当にすごいことになっていた。「ホンマかいな」というような学説が丁寧に解説されている。一覧の物語の鍵となっていた量子学が結末にどのような影響を与えるのか、いやこれはすごかった。是非最後まで読んでいただきたい。
前作ではちょっとした不満もあったのだが、今回は話のパターンがちょっと変わってやられる一辺倒で終わらない強いシグマが描かれているのも良かった。
なにげに主人公は前作では父親、今回は恋人との関係性を少しづつ前向きに考えた結果かえていこうという描写がなされていて、そこも好感が持てる。
もう一ついいなと思ったのはナチの書き方。ヒトラー率いるナチの話というのは様々な作品のテーマになっていて、創作物でも登場する頻度は結構高い。(前に紹介した「深い疵」でも重要なテーマになっていたよね。)兎に角ナチが過去やったことというのは負であるものの、変な話規模がでかすぎてよくも悪くも人を引きつける力があるのだと思う。(勿論非道を忘れないようにという力が発生しているのもあると思うが。)しかし、兎に角真っ黒いブラックホールのようにパワーが半端ないので、作中の雰囲気がナチ一色になってしまうのが普通だと思う。ただ今作ではナチの非道とその残り香が持つ禍々しさを存分に書きつつも、そこにとらわれずにあくまでも一つの要素(勿論超重要な要素なのだが、)として言い方はあれなのだが、結構ドライに書いていてナチにとらわれすぎずに独自の物語を書いていると思った。
個人的には前作よりも面白かった。
前作を読んだ人でまだ読んでない人は是非どうぞ。
気になった人は今作から読んでも楽しいと思います。
私は次の「ユダの覚醒」も読んでみようと思っています。
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