2017年2月5日日曜日

TRAGEDY/NERVE DAMAGE

アメリカ合衆国オレゴン州ポートランド(かつてはテネシー州メンフィスを拠点としていたとのこと)のハードコア/クラストバンドの3rdアルバム。
2006年に自身のレーベルTragedy Recordsからリリースされた。
クラストのHis Hero is Goneのメンバーらによって1995年に結成されたバンドで
今までに4枚のアルバムをリリースしている。
この手の音楽では非常に愛されているバンドで多大なフォロワーを生み出しているバンドでにわかな私は名盤と誉れ高い2ndアルバム「Vengeance」を持っている。
どうもこの3rdアルバムからバンドは音楽性を変更させ始めたらしく、4thと合わせてかなりの賛否両論を巻き起こしたという。そんな話題性に富むアルバムは気になるものでかってみた。私が買ったのはLP。鳥の輪郭が青い版。バンドのモチーフである鳥が大胆にあしらわれている。いうまでもなく空高く飛ぶ鳥は自由の象徴だ。

結論から言うと全然かっこいい。むしろ2ndより好きかもしれない。こう書くと「天邪鬼め!」「通ぶりやがる!」と言われそうなのだけど、これはにわかな私が聴いているからだろうだと思う。もっと言うとこのバンドに何を求めているのか?と言うことかもしれない。1st、2ndは疾走感のあるカラッとしたハードコアだった。大変格好良く耳目を集めたわけで当然そんな音楽性を次作にも期待するのが人情というものだ。Tragedyのイメージというのが確立したわけだ。私はそれが固まっていなかったので今作を聞いて「これがTragedyなのだな」とこう思ったのだ。こうなるとやはり2ndを聞き直してみる必要がある。そうしてみるとやはり強く強くそして外へ外へ広がっていく開放感のある気持ち良いハードコアをやっている。一転して今作3rdではそのポジティブさに歯止めがかけられている。これは意図的なもので1曲め「Eyes of Madness」の冒頭のサイレンのサンプリングでわかる。これは文字どおり警鐘を鳴らす音楽であって、全体的に陰鬱さが立ち込めている。外に広がっていくというよりは内側に沈み込んでいく。いわば閉鎖的になっているわけだ。ただ「Nerve Damage」の陰鬱さがダメというなら「Vengeance」にだってその要素はあるでしょ!というのは流石にずるい言い方だと思うけど(色の濃さが問題なので)、暗いからダメというのではないのだないう気がする。勢いがなくなったわけでもない、メロディ性もある。音はメタリックだがそれについては前作も同様だ。ただし今作の方が音の厚みが増しているからそれが壁のようになっていて閉塞感を増しているのかもしれない。ピアノやアコギ、インストも入れてきているのは変化だが、曲自体が大げさに誇張されたものにはなっていない。後半の曲は顕著だがスピードは落としている。ただ古典的なドゥームメタルのように音に隙間がないから緊張感が高まって逃げ場がない。そういった意味では苦しさがあるかもしれない。爽快感を求めているなら確かにちょっとこれには違和感を感じる人も多いだろう。
ただ言いたいのだけどやはり「Nerve Damage」かっこよくないだろうか?Tragedyの良さってなんだろう。一つはハードコアらしさだ。男らしい。今回内巻きに沈み込んでいるとしてもその音楽性は例えば激情ハードコアの持つ内省的で個人的な鬱っぽさ、そして装飾性は皆無だ。基本的な音楽に対する立ち向かい方は変わってないんじゃないかと思う。もう一つはメロディセンス。ぶっとい音で突き進むトレモロめいたハードコアなリフはシンプルだが力強く、そして無骨なメロディに満ちている。ボーカルにメロディラインを導入しない代わりにギターが導く無言のメロディセンスがある。バッキングとそれからソロ的に被せてくる組み合わせは3rdでも健在だ。むしろボーカルパートが減って叙情的なメロディが前面に押し出されていると思う。ぶれてないと思う。

私はもともとHis Hero is Goneにしても超名曲「Raindance」のような勢いというよりもグルーミィな後ろ向きな陰鬱さに満ちたハードコア(ここではピュアなハードコアという意味で)が好きなのでこの「Nerbe Damage」も非常に楽しんで聞くことができた。
飛ぶ鳥の不自由さをあえて歌ったかのような作風。もちろん前作とは異なるという意味では問題作なのだろうが、1st、2ndまでがTragedyなのか判断をするならネットの情報を鵜呑みにするのではなく是非今作を聞いてほしいと思う。

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