アメリカの作家による短編集。
チャイナ・ミエヴィルの新作ということで買って見た。そもそもミエヴィルを読み始めたのが前回の短編集「ジェイクを探して」だった。表紙が私の好きな漫画家の弐瓶勉さんぽくてかっこよかったから買ったのだ。要するにジャケ買いだったんだけどその中身がよくわからないんだけど面白かった。そこから全部を読み切ったわけではないがミエヴィルは好きな作家の一人になった。
今回の短編には28つの短編が収録されている。数は多いから一つ一つは短いが結構読むのに時間がかかってしまった。ミエヴィルは決して読みやすい作家ではない。特に短編では彼のぶっきらぼうなところと、やや天邪鬼なところ(あえてわかりにくい書き方をするところがあるかなと、後述)が出ている。具体的には状況の説明があまりない。SF作家には結構ありがちだが、マクロな視点ではなくミクロな視点でも圧倒的に説明が不足しており、これはあえて書かれていないので「なんだなんだ」と思って読み進めないと状況が把握できないような作りになっている短編もいくつかあった。これはもちろんあえてこう書いているのであって、「暗闇を歩いているような不安な気分を味わってね」という作者の配慮に他ならない。いわば書かれた文字ではなく、そこから生まれる体験(よくUXとか言われるのと近いかなと個人的には思った。)もプロデュースしちゃうよ、というのがミエヴィルなのかもしれない。読みやすいわけではないが、代わりに他では得難い独自の雰囲気を獲得している作家だと思う。その持ち味が短編になるとギュッと凝縮されていて個人的には大変面白かった。読み解くような読書の遅さも楽しみの一つになったと言える。
自作を怪奇小説と称しているらしく(wikiより) その言葉通り、SF、幻想小説の垣根なく不思議な作品を書いている。(その世界観が遺憾無く発揮されているのが長編「ペルディード・ストリート・ステーションだろうか)ジャンルレスというより描きたいものが既存の枠に収まりきらないのかもしれない。相当頭のキレそうな人だからもちろんその創作物も複雑な意図に満ちているのだろうが、わかりやすいメタファーというよりは不思議そのものを描いているように思えるし、それが本書の帯の「シュール」という言葉に結実しているようにも思う。短編によっては異世界のことが異世界の言葉で書かれているように愛想がなく、異世界の説明不足のまま終わってしまうこともあり、ページを通して異世界を垣間見た読書はポンとそこから放り出されてしまうようなこともある。ミエヴィルのニヤリと笑う顔が見えるようである。(ミエヴィルは作家にしては(という言い方も変だが)強面のほうだ。)
個人的に気に入ったのは下記二つの短編。
「ゼッケン」これはチャイナ・ミエヴィル流の怪談と捉えた。ドイツを訪れた若い女性のカップルが幽霊にとりつかれる話。外国の幽霊譚というとびっくり箱的な恐ろしさがあるものだが、これはかなり和風ではないだろうか。因果がありそしてそれが結局生身の人間には理解できない、という作りがただただ恐ろしい。
「九番目のテクニック」これは魔術、もっというと呪いを現代的に書いた作品。これも方程式めいた独自の言語で書かれており、読み手は魔術師ではないので(私が愚かな性というのも大いにある)全てをはっきり理解できることができないのだが、現代に生きる黒魔術の世界を垣間見ることができる。ミエヴィルはトールキンを毛嫌いしているらしいが、未だに骸骨、蝋燭、反キリスト的な文言など旧態然とした魔術の要素・モチーフを使い続ける小説群に対しての強烈な反旗のようにも感じれらた。この本の中ではこれが一番面白かった。ぞわぞわきてしまうくらい面白かった。
個人的には大変面白かったのでいろんな人にも読んでもらいたい。読みやすいわけではないが、不思議な話(SFでも怪奇でも)に興味がある人ならすらっと楽しめてしまうと思う。是非是非どうぞ。
wikiを見るとまだまだ訳されていない作品があるみたい。新作も楽しみだがまずは既存の本を翻訳してほしいなと思う。とりあえずまだ読んでない作品を買ってみようと思っている。
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