日本の作家によるミステリー小説。
京極夏彦さんの新シリーズということで久しぶりに読んでみることに。
文明開化後の明治20年ごろ元士族の主人公は勤め先から長期休暇をもらって家を出、郊外に一軒家を借りて悠々自適に過ごしていた。妻子とは離れてしまったが、元士族ということである程度の蓄えはあってこんなダラダラしていいものかな?と思いつつも無為に日々を過ごしていた。ある日偶然一風変わった本屋に出会う。灯台のような形をした店には書架、そしてその中には本がびっしりと詰まっている。店名は「弔堂」と言い、元僧侶という白装束の店主は全ての本は墓場のようなものという。この弔堂で主人公は様々な人々に出会う。
基本的に連作小説になっていて基本的な登場人物は一緒、主人公と本屋さんとその店員がいろんな人に出会っていくという体裁。ミステリー要素というのはこの主人公サイドの3人が出会っていくのが結構有名な人でなかなかその名前が明らかにされない。で読書としては誰かな?この人かな?なんて読んでいくわけでこれは結構楽しかった。ちなみに私は一人もわからなかった。名前すら初めて知った人もいたが。
京極夏彦さんというと妖怪の人というイメージ、本を読んでみると凄惨な描写も結構出てくるわけ。この本でも妖怪や幽霊は出てくるのだけど、人殺しは発生しない。謎というのは前述の客は誰か?ってことになるからいわゆる人が殺されて犯人が誰?という王道のミステリーではない。京極堂は理屈っぽい人だったけど、形としてはその理屈っぽさがもっと前面に押し出されている。弔堂を訪れる客たちは何かしらの悩みを抱えているのだけど、その正体がよくわからない。店主がまずその悩みを整理してこういうものだと説明する。それからこういった解決策もあるかもしれません、といって一冊の本を提示する。いわば精神科の先生か、カウンセラーのようなもの。この一連の解決までの流れは基本的に本屋の中で進行する。客も本屋だから「悩みがあります」とは来ないわけで、普通に本を求めてやってきた彼らの心の内を店主が見抜く、ということになる。ここれへんは直接現場に赴かないで伝聞や、その人の態度、言葉から人となりを見抜く安楽椅子探偵やホームズのような鋭い観察眼が生かされたミステリーとして読むことができる。殺人という大きな動きがないので結構落ち着いて読めるが、個人的にはもっと動きがあってもよかったかなと思った。店主が絶対的に正しすぎるきらいがある。店主が言っている内容に関しては基本的に同意できるのだけど、人間正しい理屈だからと言っても納得できるものではないので、結果同じところに着地するにしてももうちょっと議論があってもよかったかなと思った。(ただそうなると物語がわかりにくく、ページは増えるのかもしれないが。)
軽く調べてみると京極堂シリーズをはじめとしていくつかの筆者の作品とリンクしているようだし(私はわかる人もいればわからない人もいた)、京極夏彦さんが好きな人は是非どうぞ。京極夏彦は気になっているが分厚いのが気になる、という人はまずこの本を読んでみると、(現代を舞台にした作品ももちろん良いけど)時代もので存分に発揮される作者の魅力を味わうことができるのではと。
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