2016年12月17日土曜日

バリントン・J・ベイリー/ゴッド・ガン

イギリスのSF作家による短編集。
日本でも何冊か翻訳されている作家だが私は読んだことがなかった。「ゴッド・ガン」というタイトルに惹かれて購入した。ハヤカワ文庫。
1937年生まれで時期的にも距離的にも「ニュー・ウェーブ」の波の影響を受けたが、結構独自の道を進み続けた特異な人だった様だ。決してメインストリームで活躍したわけではなかったみたいだが、サイバーパンクの立役者の一人ブルース・スターリングはベイリーを師匠と仰いでいたとのこと。

全部の10個の短編が収められていて時代設定は遥か未来のことが多い。当然現代の科学から隔たりのあるガジェットもたくさん出てくる。SFでは特異な設定をそのまま当然のものとして扱うことがあるけど、ベイリーの場合はこれらに対して科学的な(というよりはSF的)な設定をきちんと書いている。もちろん実際ではないのだが一応こういう仕組みで動いているんですよ、と書いてある。私は科学的な頭を持っていないので一体どこまで真実味を含んでいるのかはわからないが、難しい単語が並べてあってそれらしい。ガジェットと合わせてSF好きの琴線を揺さぶる。ただ反面やや難解になりとっつきにくい分読者に対するハードルが高くなることもあるだろう。
あとがきには「ワン・アイディア」の人と評されていて、短編の多くには中心に大きな謎があって、それを日常に属する(設定が未来だったりするから読者のそれとは違う)登場人物がその謎に挑み、そしてそれを解き明かした時に登場人物と読者をあっと言わせる、という一つの形式をとることが多い。こうなると謎とオチのみで構成されたショートショート風の作品を想像してしまいがちだが、(実際この短編集に収録されている物語はどれもそこまで長くない)前述のガジェットも含めて設定とそれの説明に枚数を使うのできちんとドラマが展開されていて読み応えがある。
奇想とも評されるそのアイディアは枠にとらわれず宇宙に広がって行く一方、性差と男性が持つ男性優位性、そこに起因するホモフォビアを軽妙に描いた「ロモー博士の島」などひどく身近なものまで、本当に「なんでかね〜」という疑問に立脚した様々な物語が極彩色に展開される。中でも白眉の出来が「ブレイン・レース」だろう。地球から遥か離れた星で瀕死の重症(文字通り体がバラバラになった)密猟者が、医学に長けた、しかし接触を法的に厳しく禁じられている異星人に助けを求めることから始まる悪夢を描いた作品。内臓が露出した生物、それどころか自走する内臓たち、血と肉に彩られた真っ赤なグロテスクが緻密な描写によってページを通して読者の眼前に展開する。私は血が苦手(だけど同時にフィクション限定で惹かれる)ので通勤途中のバスの中で足が萎える様な感じに襲われてしまってこれが大変楽しかった!

禁忌を物ともせずに想像と表現の限界を軽く超えてくるその作風はなるほど確かにマニアックだが、特定の人にはそれが大変な魅力になるだろう。間違えないで欲しいのは決して倒錯的な作家ではないことだ。ただその想像力に縛りがない(もしくは常人に比べるとゆるい)だけなのだ。書かれている物語は非常にSF的で、硬質かつソリッドである。ある意味無慈悲にグロテスクを書いているわけでそれがまた魅力の一つになっている。
一風変わった物語が好きな人は是非どうぞ。私は非常に楽しめた。

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