2016年12月4日日曜日

Anaal Nathrakh/The Whole of the Law

イギリスはバーミンガムのエクストリームメタルバンドの9枚目のアルバム。
2016年にMetal Blade Recordsからリリースされた。
ブラックメタルにグラインドコアの激しさをミックスした激しい音楽性でファンを獲得。今年の夏には待望の初来日も果たしたAnaal Nathrakhの前作から2年ぶりの新作アルバム。セルフプロデュース作品。
私は2003年のEPを当時買ったきりだったが、ふと思い立って前作「Desideratum」を買ったらこれが非常にかっこよくて愛聴。新作ということで一にも二にもなく買った次第。ちなみに今年の夏のライブは行きませんでした。

メタル、ハードコアでも男がやる激しい音楽というのは一個の指向性として”強そう”というのがあると思うのだ。ひたすら重くなり、音の数は多くなり、速度は速くなる、声も叫びを通り越した獰猛さを備えることになる。一聴した限りAnaal Nathrakhはその方向性を突き詰めた音楽を演奏している様である。ひたすら連打されるバスドラム、重たさと速さを兼ね備えて突っ走るトレモロ、咆哮するボーカル、それらに加えてノイジーなインダストリアル要素、大仰で広がりのあるクラシカルアレンジ。ブラックメタルという範疇に限らず進化するメタルの一つの到達点、少なくとも今後進化し続けるジャンルの一つの里程標ということができるのではなかろうか。
Anaal Nathrakhはマニアックなバンドだが、アルバムは(たぶん)売れている方だし完全に知る人ぞ知るバンドではない。音質は非常にクリアだし、例えばゴアグラインドやノイズブラックメタルの様な先鋭化するあまり完全に玄人好みのバンドになっているわけではない。一つは強さを指向するバンドが例えば軟弱さの一つとして切り捨てているメロディラインを曲の中で効果的に使用している。朗々とした(Anaal Nathrakhは何と言ってもボーカルが大変魅力的だ。叫ぶにしても歌うにしても抜群の声量が圧倒的に説得力を増してている。)クリーンボーカルが歌を取るそのメロディラインは、一般的な楽曲でいうところの「サビ」の様に捉えることができる。曲の苛烈さと、歌いやすいキャッチーなメロディ。やはりこの組み合わせは人を惹きつける。クリーンボーカルだけでなく、ブラックメタル然としたイーヴィルなシャウトに緩急のあるメロディーも入れてくる。ここら辺はもともと寒々しく人を寄せ付けないながらもそのコールドさの背後に隠したメロディセンスが重要なファクターになっているブラックメタルという背景を強烈に感じさせる。
前作に比べて明らかに劇化しており、気持ちの悪いうねりのあるファルセットボイスを大胆に取り入れたり、マニアックかつ濃厚な曲でありつつもアレンジを閉鎖的でなく外に外に広がっていく様に大仰にしたりとなんとなく劇場感すらある。
個人的には2曲目の「Depravity Favours the Bold」の後半のクリーンパート、特に2分15秒あたりからの、大きく広がるあのクライマックス感。真っ黒い暗黒舞踏で急に強烈にスポットライトを当てられたかの様な、声の堂々とした主役感、これだけで完全にやられてしまった。圧倒的な強さ。

ぶれない強さを発信し続ける最新作。過去作が好きな人は迷わずどうぞ。とにかくむしゃくしゃしているぞ、俺はという悩める諸兄も芸術に触れてその煩悩を晴らすのはいかがでしょうか。

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