2015年8月16日日曜日

リチャード・モーガン/ウォークン・フュアリーズ 目覚めた怒り

イギリスの作家によるSF小説。
男の中の男コヴァッチ-サンが活躍するシリーズ第三作。
前作「ブロークン・エンジェル」が面白かったのでこちらも購入。

27世紀の人類は宇宙に進出。今はその姿を消した火星人の遺跡から得た航行チャートを元に居住可能な惑星を開発、植民地化する事でその版図を広げていた。人間の魂をデジタル化する事により、恒星間の移動も可能になり、デジタル化した魂をスタックという機器に移植する事により、スリーヴと呼ばれる肉体を換装する事で問題はありながらも事実上の不老不死を実現させていた。地球を頂点とする保護国の特殊部隊エンヴォイ・コーズにかつて所属していたタケシ・コヴァッチはサンクション第4惑星での活躍後、自分の生まれ故郷であるハーラン一族が支配するハーランズ・ワールドに戻っていた。”ある因縁”にけりをつけるため新啓示派と呼ばれる宗教に属する人間を殺害しまくるコヴァッチはある夜酒場で一人の女と出会う。その出会いを切っ掛けにコヴァッチは惑星を揺るがす”革命”に巻き込まれていく。

前作では失われた火星人の技術を求めて探検するという冒険小説の要素を持っていたが、今作は完全にハードボイルドなSFが展開される。SFだから目を見張る様な新技術や驚くべきガジェットが沢山出てくる(これも醍醐味の一つ)が、読んでいれば理解できるように優しく書いてありハードボイルドながらもハードSFの難解さは無くスラスラ読める。今作は1作目「オルタード・カーボン」のハードボイルドな雰囲気を醸し出しながらも、惑星を巻き込む革命をテーマとし、またコヴァッチが何故戦うのか?という問いかけが自分の幼少時の体験と相まって描かれているいわばスケールを大きくし、同時に過去を振り返る様な集大成的な作品に仕上がっている。
作品を通じて言葉や哲学としてたびたび登場したハーランズ・ワールドの今は死んだ伝説的革命家クウェルクリスト・フォークナーが物語に直接絡んでくる。蘇った英雄を見越しに担いでかつて失敗した革命をといきり立つ活動家。縁あって彼らに組みする事になったコヴァッチだが、あくまでも革命には懐疑的だ。ここら辺読んでいて共感できるのは個人的には私も革命家というものに不信感を持っているからだろうと思う。盲目的で暴力的な宗教への嫌悪、奇麗なお題目を抱えつつ争乱を起こしては失敗する革命への不信感。いつでも弱いものがその犠牲になる。コヴァッチの怒りがふつふつと煮えたぎってくる。前作でもあったが元特殊部隊員の冷酷な殺人マシーンとしての俺様像に綻びが生じ、無様なくらい我を失うコヴァッチ。思うにコヴァッチは常に現実と対処するのに人との関係を通じる。概念や集団は受け入れない。知り合いのシルヴィ・オオシマは助けるが、革命には懐疑的であるといったように。今回はっきり言って冷静さを書いたコヴァッチはみっともないくらいかっこわるいのだが、読み終えてみるとなるほどそこが魅力なのかと気づくのである。なんとも不思議なヒーローだと思う。
今回は結構小説の構造的にも凝っていて、冒頭読んだだけであれれ?何か変な?と思うのだが、物語が進むに連れてその違和感の謎が解けたりしてくる面白さもある。情けない話私は一度読み終えてから冒頭を読んでああ、そういうことね!と膝を打った次第。
またハーランズ・ワールドが日系の植民惑星といこともあってヤクザが出てくるのだが、東洋的な幻想間を排し、仁義だのなんだのきれいごと言っているけどただの犯罪者集団だ、ぶっ殺せと切り捨てるコヴァッチに拍手を送りたい。
解説は私の大好きな作家椎名誠さんが書いている。なんだか嬉しいものだ。
三部作完結編ということでまさに集大成であった。今のところコヴァッチ・シリーズの続編は書かれていないようだ。となると作者の他の物語も是非邦訳してほしいところです。シリーズ通じてとにかく面白かった。派手な映画っぽさもありながらもきちんと読み物として重厚なところが個人的にはとても良かった。激オススメシリーズなので、まずは1作目「オルタード・カーボン」から是非どうぞ!!

0 件のコメント:

コメントを投稿