イギリスの作家によるSF小説。
男の中の男コヴァッチ-サンが活躍するシリーズ第三作。
前作「ブロークン・エンジェル」が面白かったのでこちらも購入。
27世紀の人類は宇宙に進出。今はその姿を消した火星人の遺跡から得た航行チャートを元に居住可能な惑星を開発、植民地化する事でその版図を広げていた。人間の魂をデジタル化する事により、恒星間の移動も可能になり、デジタル化した魂をスタックという機器に移植する事により、スリーヴと呼ばれる肉体を換装する事で問題はありながらも事実上の不老不死を実現させていた。地球を頂点とする保護国の特殊部隊エンヴォイ・コーズにかつて所属していたタケシ・コヴァッチはサンクション第4惑星での活躍後、自分の生まれ故郷であるハーラン一族が支配するハーランズ・ワールドに戻っていた。”ある因縁”にけりをつけるため新啓示派と呼ばれる宗教に属する人間を殺害しまくるコヴァッチはある夜酒場で一人の女と出会う。その出会いを切っ掛けにコヴァッチは惑星を揺るがす”革命”に巻き込まれていく。
前作では失われた火星人の技術を求めて探検するという冒険小説の要素を持っていたが、今作は完全にハードボイルドなSFが展開される。SFだから目を見張る様な新技術や驚くべきガジェットが沢山出てくる(これも醍醐味の一つ)が、読んでいれば理解できるように優しく書いてありハードボイルドながらもハードSFの難解さは無くスラスラ読める。今作は1作目「オルタード・カーボン」のハードボイルドな雰囲気を醸し出しながらも、惑星を巻き込む革命をテーマとし、またコヴァッチが何故戦うのか?という問いかけが自分の幼少時の体験と相まって描かれているいわばスケールを大きくし、同時に過去を振り返る様な集大成的な作品に仕上がっている。
作品を通じて言葉や哲学としてたびたび登場したハーランズ・ワールドの今は死んだ伝説的革命家クウェルクリスト・フォークナーが物語に直接絡んでくる。蘇った英雄を見越しに担いでかつて失敗した革命をといきり立つ活動家。縁あって彼らに組みする事になったコヴァッチだが、あくまでも革命には懐疑的だ。ここら辺読んでいて共感できるのは個人的には私も革命家というものに不信感を持っているからだろうと思う。盲目的で暴力的な宗教への嫌悪、奇麗なお題目を抱えつつ争乱を起こしては失敗する革命への不信感。いつでも弱いものがその犠牲になる。コヴァッチの怒りがふつふつと煮えたぎってくる。前作でもあったが元特殊部隊員の冷酷な殺人マシーンとしての俺様像に綻びが生じ、無様なくらい我を失うコヴァッチ。思うにコヴァッチは常に現実と対処するのに人との関係を通じる。概念や集団は受け入れない。知り合いのシルヴィ・オオシマは助けるが、革命には懐疑的であるといったように。今回はっきり言って冷静さを書いたコヴァッチはみっともないくらいかっこわるいのだが、読み終えてみるとなるほどそこが魅力なのかと気づくのである。なんとも不思議なヒーローだと思う。
今回は結構小説の構造的にも凝っていて、冒頭読んだだけであれれ?何か変な?と思うのだが、物語が進むに連れてその違和感の謎が解けたりしてくる面白さもある。情けない話私は一度読み終えてから冒頭を読んでああ、そういうことね!と膝を打った次第。
またハーランズ・ワールドが日系の植民惑星といこともあってヤクザが出てくるのだが、東洋的な幻想間を排し、仁義だのなんだのきれいごと言っているけどただの犯罪者集団だ、ぶっ殺せと切り捨てるコヴァッチに拍手を送りたい。
解説は私の大好きな作家椎名誠さんが書いている。なんだか嬉しいものだ。
三部作完結編ということでまさに集大成であった。今のところコヴァッチ・シリーズの続編は書かれていないようだ。となると作者の他の物語も是非邦訳してほしいところです。シリーズ通じてとにかく面白かった。派手な映画っぽさもありながらもきちんと読み物として重厚なところが個人的にはとても良かった。激オススメシリーズなので、まずは1作目「オルタード・カーボン」から是非どうぞ!!
2015年8月16日日曜日
2015年7月25日土曜日
リチャード・モーガン/ブロークン・エンジェル
イギリスの作家によるSF小説。
以前紹介した「オルタード・カーボン」に続くタケシ・コヴァッチシリーズの第2弾。
言うまでもなく前作が大変面白かったので続くこの物語も購入した次第。
今作は文庫でなく専用のスリーブケースに入った2冊で一組の単行本形式。
27世紀、人類は今は姿を消した火星人の未だに全容が明らかではないの技術の一部の恩恵により、宇宙に進出。いまでは地球以外にも多数の星々をその版図としている。また人の意識は脳ではなくスタックと呼ばれる小さなメモリーに移され、それを換装可能な人工的人体スリーヴの首筋に埋め込むことで、ある種の不死性を獲得していた。
政府ではなく実質的に企業カルテルが支配する宇宙世界で、エンヴォイ・コーズと呼ばれる特殊部隊にかつて所属していた日系企業開発の星系出身のタケシ・コヴァッチ。今はサンクション星系第四惑星で政府側機甲部隊に所属し、同星の革命家ケンプ率いる反乱軍との苛烈な戦争の矢面に立っていた。ある日負傷したコヴァッチにシュナイダーというケンプ派の脱走兵がもうけ話をもってくる。曰く火星人のお宝を見つけたと。コヴァッチは怪しいもうけ話に乗る事にし、機甲部隊を逐電する。
前作「オルタード・カーボン」は地球を部隊にした派手なアクションシーン満載かつ哀愁のあるハードボイルドなSFだったが、今回は登場人物とハードボイルドさはそのままにやや趣を変え、失われた火星人の宇宙船を追うという冒険小説になっている。
つまり謎のお宝という、特に男子を魅了する目的がガッと一本物語を貫いている。未知の探求が主眼なんだが、面白いのはそこに至るまでの過程がかなり丁寧に書かれている事だ。冒険するといっても未開のジャングルを鉈で切り開いていく訳ではない。なにせ惑星レベルの戦争をしている星を部隊に、一兵卒が宝探しをする訳だからまずは装備を整えなければいけない訳で、コヴァッチ一行はまずもうけ話を企業に売り込みにいく訳だ。企業側だって半信半疑なわけだし、コストを抑えて丸儲けしたい訳だからコヴァッチ側を騙しにくる。緊迫感あふれる駆け引きを経て、今度は戦争状態にある発掘地帯を確保していく…と一歩ずつ火星人の宇宙船に文字通り近づいていく訳だ。
戦争状態というのは不思議なもので一応規定や決まり事にあふれている訳だが、実のところ緊急事態の戦時下ということで様々な倫理観は文字通り暴力で持って踏みにじられる事になる。兵士たちは邪魔者を吹き飛ばしていく事に躊躇は無いし、企業側は鐘を何より優先するというよりは常に利益の事しか考えない訳で、よりもうけが出るなら人命に何ら頓着しない。(悪役企業にありがちな価値観、つまり命に価値がないと考えている訳ではない。徹底的に利潤を追求しているにすぎない。)おまけに兵士も企業に牛耳られている訳でこれはもう最悪のコンビとしか言いようが無い。おまけに前述のスタックとスリーヴがあるおかげで兵士たちもどこか余裕がある。死んでもスタック(と金、だが軍に所属していれば基本再スリーヴの心配は無いようだ。)があれば再スリーヴ出来る。薬物と軍隊的な規律で精神をドーピングし、外科的技術の粋をこらした人口肉体(スリーヴ)に身を包んだ彼らはもはやあっさり人を超えた存在に見える。当然見た目を変えたけりゃスリーヴを着替えれば良い訳だし、金があればバックアップを取って永遠に生きられる。命の価値が今とは違う。そんな未来でも、星は沢山あるのに人は相も変わらず狭い地域に集まって、金のために殺し合いを続けているのだ。ディストピアというと閉じた社会というイメージがあるが、モーガンが描くのは開けたディストピアであり、だからこそ逃げ場が無いのだ。つまりどこまでだっていけるが、どこまでいっても金と暴力が支配するディストピアなのだ。ここから脱出するには文字通り世捨て人となって未開の惑星にでも引っ込むしか無いのかもしれない。もしくはスタックをつぶしてリアル・デスを選択するか。
特殊部隊故の技能があることと、感情面では色々”ない”ことが強みのコヴァッチはしかし非人間的というよりはそんな世界の最先端に上手く適応した人間に思える。基本的にコヴァッチの独白形式で進むが、ところどころエンヴォイとしての超人間的さが自覚しているほど浸透していない様がにじみ出ていてそこに人間性を見いだし、読者は共感と憧れを覚えるのかもしれない。
戦いに明け暮れる人間の愚かさから重力から逃れた後の世界でも逃れられないというのはある種の呪いの様なもので、激しいアクションやテクノロジーの背後にはそういった厭世的な無常さが垣間見えて、それがこの作品を結果一風変わったものにしていると思う。
趣が異なるものの前作同様楽しめた。次作も勿論読む予定。
ピンポイント的にはいかにも軍隊然とした悪口が面白かったので、そこら辺好きな人は是非どうぞ。ただし読むなら前作からの方が良いと思います。
以前紹介した「オルタード・カーボン」に続くタケシ・コヴァッチシリーズの第2弾。
言うまでもなく前作が大変面白かったので続くこの物語も購入した次第。
今作は文庫でなく専用のスリーブケースに入った2冊で一組の単行本形式。
27世紀、人類は今は姿を消した火星人の未だに全容が明らかではないの技術の一部の恩恵により、宇宙に進出。いまでは地球以外にも多数の星々をその版図としている。また人の意識は脳ではなくスタックと呼ばれる小さなメモリーに移され、それを換装可能な人工的人体スリーヴの首筋に埋め込むことで、ある種の不死性を獲得していた。
政府ではなく実質的に企業カルテルが支配する宇宙世界で、エンヴォイ・コーズと呼ばれる特殊部隊にかつて所属していた日系企業開発の星系出身のタケシ・コヴァッチ。今はサンクション星系第四惑星で政府側機甲部隊に所属し、同星の革命家ケンプ率いる反乱軍との苛烈な戦争の矢面に立っていた。ある日負傷したコヴァッチにシュナイダーというケンプ派の脱走兵がもうけ話をもってくる。曰く火星人のお宝を見つけたと。コヴァッチは怪しいもうけ話に乗る事にし、機甲部隊を逐電する。
前作「オルタード・カーボン」は地球を部隊にした派手なアクションシーン満載かつ哀愁のあるハードボイルドなSFだったが、今回は登場人物とハードボイルドさはそのままにやや趣を変え、失われた火星人の宇宙船を追うという冒険小説になっている。
つまり謎のお宝という、特に男子を魅了する目的がガッと一本物語を貫いている。未知の探求が主眼なんだが、面白いのはそこに至るまでの過程がかなり丁寧に書かれている事だ。冒険するといっても未開のジャングルを鉈で切り開いていく訳ではない。なにせ惑星レベルの戦争をしている星を部隊に、一兵卒が宝探しをする訳だからまずは装備を整えなければいけない訳で、コヴァッチ一行はまずもうけ話を企業に売り込みにいく訳だ。企業側だって半信半疑なわけだし、コストを抑えて丸儲けしたい訳だからコヴァッチ側を騙しにくる。緊迫感あふれる駆け引きを経て、今度は戦争状態にある発掘地帯を確保していく…と一歩ずつ火星人の宇宙船に文字通り近づいていく訳だ。
戦争状態というのは不思議なもので一応規定や決まり事にあふれている訳だが、実のところ緊急事態の戦時下ということで様々な倫理観は文字通り暴力で持って踏みにじられる事になる。兵士たちは邪魔者を吹き飛ばしていく事に躊躇は無いし、企業側は鐘を何より優先するというよりは常に利益の事しか考えない訳で、よりもうけが出るなら人命に何ら頓着しない。(悪役企業にありがちな価値観、つまり命に価値がないと考えている訳ではない。徹底的に利潤を追求しているにすぎない。)おまけに兵士も企業に牛耳られている訳でこれはもう最悪のコンビとしか言いようが無い。おまけに前述のスタックとスリーヴがあるおかげで兵士たちもどこか余裕がある。死んでもスタック(と金、だが軍に所属していれば基本再スリーヴの心配は無いようだ。)があれば再スリーヴ出来る。薬物と軍隊的な規律で精神をドーピングし、外科的技術の粋をこらした人口肉体(スリーヴ)に身を包んだ彼らはもはやあっさり人を超えた存在に見える。当然見た目を変えたけりゃスリーヴを着替えれば良い訳だし、金があればバックアップを取って永遠に生きられる。命の価値が今とは違う。そんな未来でも、星は沢山あるのに人は相も変わらず狭い地域に集まって、金のために殺し合いを続けているのだ。ディストピアというと閉じた社会というイメージがあるが、モーガンが描くのは開けたディストピアであり、だからこそ逃げ場が無いのだ。つまりどこまでだっていけるが、どこまでいっても金と暴力が支配するディストピアなのだ。ここから脱出するには文字通り世捨て人となって未開の惑星にでも引っ込むしか無いのかもしれない。もしくはスタックをつぶしてリアル・デスを選択するか。
特殊部隊故の技能があることと、感情面では色々”ない”ことが強みのコヴァッチはしかし非人間的というよりはそんな世界の最先端に上手く適応した人間に思える。基本的にコヴァッチの独白形式で進むが、ところどころエンヴォイとしての超人間的さが自覚しているほど浸透していない様がにじみ出ていてそこに人間性を見いだし、読者は共感と憧れを覚えるのかもしれない。
戦いに明け暮れる人間の愚かさから重力から逃れた後の世界でも逃れられないというのはある種の呪いの様なもので、激しいアクションやテクノロジーの背後にはそういった厭世的な無常さが垣間見えて、それがこの作品を結果一風変わったものにしていると思う。
趣が異なるものの前作同様楽しめた。次作も勿論読む予定。
ピンポイント的にはいかにも軍隊然とした悪口が面白かったので、そこら辺好きな人は是非どうぞ。ただし読むなら前作からの方が良いと思います。
2015年4月26日日曜日
リチャード・モーガン・オルタード・カーボン
イギリス人の作家によるSF小説。
2002年に発表されて2010年に本邦でも翻訳の上発売された。
27世紀人類は技術の進歩により宇宙へその版図をのばしていた。人間の精神をデジタル化することに成功したのだ。宇宙船で何万光年を飛ぶのではなく、デジタル化された精神=人間をとてつもない速度で通信する事で宇宙の距離はある程度意味をなさなくなっていた。また老いれば肉体を換装する事もできる。金があれば。そんな世界の地球で不老不死の大富豪が自殺した。バックアップ情報で再生した本人はしかし自身の自殺を信じない。警察も当てにならないので外宇宙から探偵を読んだ。探偵の名前はタケシ・コヴァッチ。日系の宇宙域ハーランズ・ワールド出身。悪名高いエンヴォイ・コーズに所属していた事があり、いまはつまらない犯罪により監獄にその精神をとらわれている。コヴァッチの精神はニードルキャストで地球に送られ、見知らぬ男の体で目覚めた彼は事件に挑む。
という物語。なるべく世界観を説明できる様なあらすじにしてみた。体がデバイスになった世界。タイトルであるオルタード・カーボンとは変身コピーと作中では訳されている。オルタードは変質された、カーボンは炭素で人間の体は炭素で出来ている。人間の精神はメモリー・スタックという小さな機械に閉じ込められ首のところに埋め込まれている。だからこのスタックを破壊されると未来人でも死んでしまう訳だ。(リアルデスと表現される。)でも肉体が多大な損壊を受けてもスタックがあれば再生できるし、スタックが失われてもデータ保管所に自分のデータコピーを持っていて、定期的に肉体側がコピーと同期していればスタックが破壊されても(同期前の情報は失われてしまうが)、自分の精神は再生できる。だから不老不死が半ば成立している。ただ全人類がその名誉に沐している訳ではない。一つは金がかかる、莫大な。だから金持ちである事が不老不死の前提である。もう一つは体(作中ではスリーヴといわれる)を換装するのは結構しんどいらしく(以前の体と精神のバランスが崩れる)2つ目の体に入っても3つ目の体に入る人は少ない。もういいやと思ってしまう。この後者の設定が面白い。なんとなく技術の進歩に対してついていけない人間の本質が描かれている。
ギタイの感想というとサイバーパンク的だがこの小説はオルタード・カーボンつまり肉体に焦点を当てている印象がある。電脳は極度に発展しており、当然肉体を伴わない電脳空間も存在するのだがどちらかというと少人数の個人的な用途(この物語では主に拷問)で使われている。いわばもっと肉体的で物語の中心には奇形の未来人立ちが起こした”事件”が据えられている。解説でも述べられている通り、かなりハードボイルドの要素が強い。前に紹介した「重力が衰えるとき」に構成は似ている。こっちの方がより硬質で未来的だが。
さて人間に取って肉体が服装みたいになってしまった世界である。男の体をいているから男って訳にはいかないだろうし、絶世の美女だって100歳をゆうに超えていることもある。制限が取り払われた世界で人間の意識は拡張している、というよりはより傲慢になっている。コヴァッチの依頼主の大富豪バンクロフトもその代表格で、年相応というのは最早無い。人間の本質はちっぽけなスタックに入った精神ということになる。ところが肉体から解放されたというよりは、かりそめにすぎない肉体に多大な影響をうけたいびつな人間ばかりでてくるのだから皮肉なものだ。
金で買える永遠の生が貧富の差をさらに拡大した、傲り高ぶる富めるものと踏みつぶされる貧者というディストピアを900ページ弱くらいのボリュームで書ききっている。なんせへらへら笑う金持ちを殺してもあっという間に蘇り、変わりのないこっちの生命を絶ってくるのだから持たざるモノは弱い。そんな世界でプロなのに”私情”で動くコヴァッチというのはダークヒーローであり、非常にハードボイルド的であるカッコいい主人公である。
とても面白く読めた。3部作なのだが、続く2部は文庫化されていないんだよね。3部は文庫化されているのに。むむむ。まあとにかくオススメです。硬質なSFを読みたい人は是非どうぞ。
2002年に発表されて2010年に本邦でも翻訳の上発売された。
27世紀人類は技術の進歩により宇宙へその版図をのばしていた。人間の精神をデジタル化することに成功したのだ。宇宙船で何万光年を飛ぶのではなく、デジタル化された精神=人間をとてつもない速度で通信する事で宇宙の距離はある程度意味をなさなくなっていた。また老いれば肉体を換装する事もできる。金があれば。そんな世界の地球で不老不死の大富豪が自殺した。バックアップ情報で再生した本人はしかし自身の自殺を信じない。警察も当てにならないので外宇宙から探偵を読んだ。探偵の名前はタケシ・コヴァッチ。日系の宇宙域ハーランズ・ワールド出身。悪名高いエンヴォイ・コーズに所属していた事があり、いまはつまらない犯罪により監獄にその精神をとらわれている。コヴァッチの精神はニードルキャストで地球に送られ、見知らぬ男の体で目覚めた彼は事件に挑む。
という物語。なるべく世界観を説明できる様なあらすじにしてみた。体がデバイスになった世界。タイトルであるオルタード・カーボンとは変身コピーと作中では訳されている。オルタードは変質された、カーボンは炭素で人間の体は炭素で出来ている。人間の精神はメモリー・スタックという小さな機械に閉じ込められ首のところに埋め込まれている。だからこのスタックを破壊されると未来人でも死んでしまう訳だ。(リアルデスと表現される。)でも肉体が多大な損壊を受けてもスタックがあれば再生できるし、スタックが失われてもデータ保管所に自分のデータコピーを持っていて、定期的に肉体側がコピーと同期していればスタックが破壊されても(同期前の情報は失われてしまうが)、自分の精神は再生できる。だから不老不死が半ば成立している。ただ全人類がその名誉に沐している訳ではない。一つは金がかかる、莫大な。だから金持ちである事が不老不死の前提である。もう一つは体(作中ではスリーヴといわれる)を換装するのは結構しんどいらしく(以前の体と精神のバランスが崩れる)2つ目の体に入っても3つ目の体に入る人は少ない。もういいやと思ってしまう。この後者の設定が面白い。なんとなく技術の進歩に対してついていけない人間の本質が描かれている。
ギタイの感想というとサイバーパンク的だがこの小説はオルタード・カーボンつまり肉体に焦点を当てている印象がある。電脳は極度に発展しており、当然肉体を伴わない電脳空間も存在するのだがどちらかというと少人数の個人的な用途(この物語では主に拷問)で使われている。いわばもっと肉体的で物語の中心には奇形の未来人立ちが起こした”事件”が据えられている。解説でも述べられている通り、かなりハードボイルドの要素が強い。前に紹介した「重力が衰えるとき」に構成は似ている。こっちの方がより硬質で未来的だが。
さて人間に取って肉体が服装みたいになってしまった世界である。男の体をいているから男って訳にはいかないだろうし、絶世の美女だって100歳をゆうに超えていることもある。制限が取り払われた世界で人間の意識は拡張している、というよりはより傲慢になっている。コヴァッチの依頼主の大富豪バンクロフトもその代表格で、年相応というのは最早無い。人間の本質はちっぽけなスタックに入った精神ということになる。ところが肉体から解放されたというよりは、かりそめにすぎない肉体に多大な影響をうけたいびつな人間ばかりでてくるのだから皮肉なものだ。
金で買える永遠の生が貧富の差をさらに拡大した、傲り高ぶる富めるものと踏みつぶされる貧者というディストピアを900ページ弱くらいのボリュームで書ききっている。なんせへらへら笑う金持ちを殺してもあっという間に蘇り、変わりのないこっちの生命を絶ってくるのだから持たざるモノは弱い。そんな世界でプロなのに”私情”で動くコヴァッチというのはダークヒーローであり、非常にハードボイルド的であるカッコいい主人公である。
とても面白く読めた。3部作なのだが、続く2部は文庫化されていないんだよね。3部は文庫化されているのに。むむむ。まあとにかくオススメです。硬質なSFを読みたい人は是非どうぞ。
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ハードボイルド,
リチャード・モーガン,
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