日本の作家による連作SF小説。
2013年に単行本の形でリリースされると第34回日本SF大賞、2014年版SFが読みたい!の国内編で1位に選ばれたりと話題になった本。気になっていたので、今回東京創元社から文庫になって再登場というタイミングで購入。
著者の酉島伝法はどうやら(小説とどちらが先なのかは分からないが)デザイナー兼イラストレイターを生業としているという事で、ご本人の手によるイラストがいくつも収録されている。
世界観を共通にする4つの独立した物語が収められている。間を読み取るのが難しいごく短い背景の説明をする断片が埋めている形。
この小説非常に読みにくい小説で普通のSFを読む程で本を開くと結構戸惑うのではなかろうか。私がそうだった。まず一つにSFといっても広義に渡るが、共通して現在にない想像力を駆使した(あるいは現在の延長線上である程度実現される度合いが強い)未来的な技術を物語の根幹に、あるいは周辺に配した”ソリッド”な文学である事が多い。非現実を扱いつつも説明を必要しない(そういえばSFだって飛躍のある技術の説明はできないのだが)幻想小説とは一線を画す訳だ。ところがこの4つの小説群というのはどうにも模糊としている。それも幻想的というよりは内蔵がうごめき異形がひしめき合うグロテスクなものである。一つはその文体で架空の言語が難しい漢字を当てられて頻出する。意識的に難しい語彙がこれでもかというくらい使われている。さらに筆者が考えだした全く新しい単語もそれ以上に出てくる。これらに関してはどうも前後の文脈からこういうものだろうと判断するしか無い。もう一つは全体的に世界がグチャっとしている。人間らしき隷長類はでてくるものの変な生物に寄生されていたり、単独生殖したりとどうも様子がおかしい、食べ物も変な気持ち悪いものを食べている。その周りには社長と呼ばれる不定形のアメーバだったり、しゃこ(すしネタにもあるあのしゃこ、私は虫じゃん!と思って食べられないんだ)に似た殻場の外角をもったデカい化け物、通称「外回り」が跋扈している。他にも自ら人類と賞する昆虫のような生物たち。もう本当なんだか分からない感じになった人間たち。こんな個性豊かな面々がぐちゃぐちゃのたくっているのだ。この文体と世界観(個性的な世界観を表現するためには個性的な文体が必要なのだと分かるだろう。(音楽で言えば過剰な演奏で過剰な世界観を確立しようとするメタルに似ている。(無理矢理かなあ))
この突き放した様な世界観にちょっと戸惑うのは確かだが、おぼろげに名前から性質が想像できる粗野な生き物(もしくは化け物)が跋扈する生命力あふれる世界観は椎名誠さんのSFに相通じるところがあるし、なにより漫画家の弐瓶勉さんの世界観に良く似ている。(弐瓶勉さんは登場人物に椎名誠さんの小説の登場人物の名前をつけたりしている。)作者が考えた感じに彩られた造語が多いところと、全体的にぐちゃっとしているところはそっくりといっても良い。私は弐瓶勉さんの描く漫画のファンであるから、この酉島さんの書く世界観にもなんとか入り込む事が出来た。そこは完全なディストピアであり、最早魔界であるが、そんな世界観を文字を頼りに頭の中に再現できるというのは読書の醍醐味ではないか。
大森望さんの解説が大変分かりやすくこれを読むと沢山の「?」が解消される。なるほどね!と膝を打つところ多し。ただし本編を読み終えてから読まないと駄目。確かにSFだったんだなあと感心。
決して読みやすくはないが、難解な言葉の壁を越えれば貴方の想像力を超えた世界が広がっている。化け物が跋扈する地獄にきっと魅せられる事だろう。弐瓶勉さんの漫画が好きだという人は是非手に取っていただきたい。
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