アメリカの作家によるハードボイルドなミステリー。
2003年に出版され、日本では2006年に翻訳された。
有名な作家による有名作であることは間違いないが、マーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ主演で2010年に映画化されており、こちらで知っている人も押印じゃなかろうか。
ちなみに私は映画の存在を知っていたものの見たことはなく、前にブログで紹介した「運命の日」に多いに感動して同じ作家の本を買ってみたのである。
1954年、連邦保安官のテディ・ダニエルズは相棒のチャック・オールとともにフェリーに乗りボストン沖に浮かぶシャッター島を目指していた。島にはアッシュクリフという病院が存在し、精神を患った犯罪者たちが収監されている。この施設から女性の患者が一人こつ然と姿を消した。重い監視がついた施設内の部屋から文字通り消えたのだった。謎のメッセージを残して。テディとチャックは捜査を開始するが、島にはかつてテディの妻を殺害した男が収監されており、折しも巨大な台風が迫るさなか事件は思わぬ方向に大きく動いていくことになる。
舞台は1950年代である。当然現在とは大きく隔たりがあって、とくに精神病理学の現場となったら今とはだいぶ趣が異なる。とにかく閉鎖的封鎖的で、治療薬だってその効果のほどは不確かでロボトミー手術が治療の一つの手段として存在していた時代である。
そこに警察官がたった2人で乗り込むという訳だから普通の警察小説とはかなり趣を異にする作品である。昨今の警察小説・犯罪小説が犯罪の手口が時代とともに大仰になっていくのにあわせて次第にそのスケールを増していることを考えると、時代設定も相まってだいぶ古風な作品であるといえるかもしれない。しかし犯罪の本質、その恐ろしさ、おぞましさというのは時代がいくら変わっても変わらないものである。むしろ現在と隔たりがある分、なにかしら不気味な存在感があるのかもしれない。
社会から孤立した、精神に異常がある犯罪者を収監している小島、テディとチャックの2人はそんな異界に足を踏み入れて女性の創作にあたる訳だが、謎めいた患者、島の物々しい雰囲気、謎の暗号、捜査は広がりを見せるどころか謎の小道に迷い込んでしまうようである。加えてテディの妻を殺した仇敵の存在、物語は妻を失ったテディの深すぎる悲しみにページを割いていく。物語は次第次第にテディの内面に切り込んでいく。井戸に沈み込んでいくように深みにはまっていく。昨今の警察小説の主人公たちは種類は違うものの何かしらの問題を内面に抱えていく、外で発生する事件と同時進行で彼らの内面が描写され、事件の解決とともに内面の問題も解決する場合、解決した後も同じように問題を抱えていく場合、それは様々だが、この小説では主人公であるテディの内面の問題がどんどん肥大化していき、外的世界を浸食していくようである。捜査は進んでいくのに、文字通りの箱庭で巨大な陰謀によってコーナーに追いつめられてしまうような閉塞感と不安感がある。
すべてを吹き飛ばしてしまうような嵐が象徴的で一体嵐が過ぎ去った後はどんな景色が広がっているのか、ぜひ読んでいただきたいと思う。
「運命の日」とは全く違った意味でううむ、と唸らされた。
物語だからどうしても極端な所はあるけど、今作でも出来事の持つ良い側面、そして悪い側面をどちらも描くような力強さがあってそこがこの作者の持つ面白さなのかもしれない。非常にオススメ。
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