2013年12月15日日曜日

ジョン・スコルジー/老人と宇宙

アメリカ人の作家によるSF小説。
タイトルは「ろうじんとそら」で、原題は「Old man's war」、老人の戦争。
作者のジョン・スコルジーはカリフォルニア州生まれ。ノンフィクションの本をいくつか執筆した後、自身のブログにこの小説を発表。1日1章更新するスタイルで、その後出版社から紙媒体の本として発売された。権威と伝統のあるヒューゴー賞候補になり、ジョン・W・キャンベル賞を受賞。

今より未来。科学技術は発展し、人類は宇宙に進出。コロニーを作り、そこに植民することでその版図を広げていた。地球生まれ地球育ちのジョン・ペリーは75歳の誕生日にコロニー連合の持つ防衛軍へ入隊した。老人たちの部隊。応募資格は75歳以上であること、2度と地球に帰って来れないことに同意することなど。奇妙な噂はあれど地球には全く情報は入ってこなかったが、老人たちの志願兵は後を絶つことがなかった。ペリーは軌道エレベーターで宇宙へ。そこで驚愕の事実を知らされたペリーらは脅威の技術でエイリアンたちと戦う兵士に仕立て上げられ戦場に赴いていく。

実はこの話、ロバート・A・ハインラインの「宇宙の戦士」へのオマージュらしい。らしいというのは私はそちらを読んだことがないからなんだよね、恥ずかしながら。映画化された「スターシップ・トゥルーパーズ」なら見たことあるんだが。
面白いSFが読みたいと思っていたところ、Amazonで評価が良いので買ってみた。

この話の肝はなんといっても老人が兵士になって戦争に行く、というアイディアだと思う。読み始めた当初は主人公を老人にする意図がイマイチ分からなかったが、読み進めていくとなるほどなあと思う。一旦死んで生まれ変わるというのではないが、主人公の老人たちはそれまでの人生を捨てて兵士として全く新しい世界での戦いに身を投じる訳です。過去を捨ててと言っても意識も個性も老人のそれから連続している訳だから、そこに葛藤が生まれて、普通の新兵とは一風違ったドラマが生じる訳。
主人公ジョンの内面的な告白を織り込みながらも、読み物として大変魅力的な宇宙戦争が繰り広げられていく。魔法的な最先端科学、容赦のない鬼軍曹、奇怪で気色悪く残忍なエイリアンたち、ミステリアスな特殊部隊の女性兵士、そして戦い、死、戦い。優秀な兵士に成熟しつつあるジョンが次第に心のバランスを失っていく過程は戦争という状況の異常さ個人的なレベルに落とし込んでいて非常に共感できた。また勇ましい軍隊をただ賛美するのではなく、そのあり方に対して疑問を感じさせるような書き方も個人的には良かった。
地球とコロニー連合、人類とエイリアン、若者と老人、新兵と特殊部隊に属する兵士などはっきりとした二項対立が恐らく意図的に多めに配置されているので、物語のコントラストがはっきりしていて、単純明快で結構さくさく読めてしまうのも良いところ。

ただちょっと個人的には気になるところもいくつかあった。
スキップドライブの理論ではちょっと疑問が残るし(これは単に私の頭のできの問題だと思う。)、特殊部隊の兵士の由来の効率の悪さには首を傾げた。(たとえ多様性を維持するにももうちょっとスマートなやり方があると思うんだけど。)作中の登場人物も言っていたが、そもそも広大な宇宙を巡って大規模な戦争が必要なのか?とも思った。ただしこれは前の記事でも書いたが、たとえ全宇宙の全民族の腹が満たされるような世界がやってきたとしても争い毎はなくならないのだろうとは思う。そういう意味でこの本に出てくるコンスー族はとても興味深い種族である。
そんな疑問に関しても自分で考えてみるのは読書の醍醐味の一つかも。

多少御都合主義過ぎなところがあって気にならなくもないが、エンターテインメント性は抜群なのでSFが読みたいぜという貴方にはオススメ。

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