2013年12月22日日曜日

ジョー・ネスボ/スノーマン

また出た北欧の警察小説!
という訳で新シリーズの紹介。
舞台はノルウェイ、首都オスロ。ノルウェイを舞台にした警察小説というと今まで紹介したことは無かったかな?初めてじゃないかなと思うのだが。
作者はジョー・ネスボ。ノルウェイの作家で経歴が一風変わっている。若い頃はサッカー選手を目指していたが怪我で別の道へ。大学卒業後に就職し、バンド活動を始める。その後オーストラリアに渡り書かれたのが、本作の主人公ハリー・ホーレ警部ものの第一弾。それが本国で出版されて小説家として歩みだした。今はノルウェイに在住。ちなみにバンド活動は今も続けているそうでバンド名は「Di Derre」。ボーカルとギター担当。
本作はハリー警部ものの7作目で、本国では10作が刊行されかのガラスの鍵賞も受賞。単行本の帯によるとマーティン・スコセッシ監督の手で映画かもされるようだ。

ノルウェイ王国の首都オスロ警察に勤めるハリー・ホーレ警部はある女性の失踪事件を契機に近年オスロ周辺での既婚女性の失踪事件の異常な多さに気がつく。調査を開始すると失踪が起きた現場の周辺では雪だるま(スノーマン)が目撃されていた。遅々として進まない捜査をあざ笑うように今度は雪だるまに見立てられた凄惨な死体が…ハリーはいつしかスノーマンと呼ばれるようになった連続殺人鬼を追いつめていく。

さて今作もご多分に漏れず、疲れた中年の男が主人公。
ただほかのシリーズに比べると少し若い印象がある。背の高いからだは痩せてはいるが筋肉質な体つきで、ほぼスキンヘッド直前の坊主頭という強面の警部。やはり家庭の問題とアルコール依存という個人的な問題を抱えていて、彼の生活の苦悩や疲れが事件と平行して丁寧に描写される。いわゆる組織の中のはぐれもので対人関係がヘタクソ。無愛想で頑固で独断専行。面白いのはアメリカで連続殺人鬼についての講習を受けていて、同僚の言葉を借りるならば連続殺人鬼に取り憑かれている。ノルウェイではそんな連続殺人なんて起こらないのに。ようするにちょっと浮いている困り者の警部。

そんな警部の前に連続殺人鬼が現れ、これに対峙することになるのだが、なんといってもスノーマンという呼び名の通り、雪だるまに見立てた殺し方が目を覆いたくなるくらい残虐で、死体をバラバラにするだけでは飽き足らず、雪だるまの頭にのせる、雪だるまにのせてさらに磔にするというちょっとした前衛芸術家のように殺しまくる。この殺人現場の描写が北欧の寒々しさとマッチしてほかに類の見ない独特な凄惨を生み出していることに成功している。曇り空の下、雪と血の強烈なコントラストとも言うべきか。恐ろしいのに凍り付いたような冷徹さがあって、血まみれなのにむせ返るような生々しさが妙に欠落しているような、そんな感じがあってともすると日本人の私からすると異界的な恐ろしさと魅力がある。

事件は如何にも怪しい人物が複数人登場し、徐々に進む捜査は二転三転していく。ミステリといっても警察小説だから、そこまで犯人はだれかな?という問いかけが主題ではないが、徐々に捜査の輪が狭まって真相が明らかになっていく過程がとてもスリリングで面白い。すべてが明らかになってなるほどそういうことだったのか、と納得するまでページをめくる手をどこで止めていいのやら、という楽しくも困った小説。

この小説のテーマの一つは家族、親子関係。ハリー警部は以前の恋人(ひょっとしたら結婚してたのかな?)と分かれているが、未練がある。恋人には子供がいてもちろんハリーとは血がつながっていないが、ハリーは彼のことをとても大事に思っていて、オレグという息子もハリーとは親子のような関係。
殺人鬼スノーマンはサイコパスらしく独自の思想体系と美学でもって殺人を繰り返す訳だが、そこには家族そして親子の関係が根底にある。実際読んでいただきたいのであまり突っ込んでは書かないが、本作によるとノルウェイの子供の20%は父親の子ではないそうだ。重い問題の清濁を余すこと無く書ききって、安易な独断を下さず、善し悪しは読者の判断にゆだねるような書き方は個人的に気に入った。
様々な登場人物が出てくるけど、脇役たちの状況もくどくない範囲でしっかりと書き込んでいるから、この家族というテーマが軽薄にならず、どっしりと問いかけてくる説得力がある。

というわけで非常に楽しめて読めた。あえて言うなら主人公がちょっと格好よく書かれすぎているかな?とも思ったけど、そういうものだと思えばあまり気にならない。
シリーズのほかの作品も邦訳していただきたいところ。

0 件のコメント:

コメントを投稿