2016年3月5日土曜日

ロバート・E・ハワード/深紅の城砦 新訂版コナン全集5

ロバート・E・ハワードの手によるヒロイックファンタジー第5弾。
今回は「黒い異邦人」「不死鳥の剣」「深紅の城砦」の3編が収録されている。どれも結構なボリューム。
今回蛮族のコナンは「不死鳥の剣」よりついにハイボリア世界の一国アキロニアの王となっている。まさに英雄王、蛮族の出自ながらその肉体と剣のみで一国の王となったのだ。王権神授説を唾棄すべきものと考えている野蛮人は刃によって王権を簒奪した。ただ根っからの脳筋野郎のコナンは良い年して、がんばってなってみたもののやっぱり王様は退屈だわ…と悩んでいるご様子なのだが。

さて何と言っても白眉は表題作「深紅の城砦」だろう。
王となったコナンは悪名高い黒魔術師の奸計におちいり、王ながら敵国の城砦の囚われ人になってしまう。反逆者たちは王のいぬ間に挙兵し、王都へ彼らを薦める。王都では反逆者と結託した旧王家に連なるものがクーデターを起こす。城砦の地下深く、地獄と繋がる地下牢に捕われたコナン。今までは自分のみ一つの心配をしていれば良かったが、今回では自分の民たちが肥え太った反逆者どもの餌食にされてしまう。ハワードは物語の中盤で主人公の立場を一兵卒から王に転換させる事で物語に新鮮みを追加することに成功している。クライマックスは、抑圧された群衆が反乱軍を虐殺しているその真上城壁の上で、とある力によって王都に舞い戻り反乱者を血祭りに上げたコナン王が哄笑するシーンだろう。彼の笑いは勝利によってもたらされたものではないのだ。それはこの血で作り上げられた世界とその中心に座る自分を含めた権力者たちの虚構、行ってみれば自分を取り巻くこの世界のくだらなさ、変わらない残酷さに笑わざるを得なかったのだ。最早笑うしかない。それでもコナンは世界を世界に対してなにか希求した事は無い。今回も反逆者どもを鏖殺したあと、やはり元の玉座に坐る事になった。
今までは立ちふさがるものはただただ切り伏せて来、そんな力強い姿に読者も歓喜したものだが、この中編ではその世界の裏側をむせ返る様な残虐描写によってハワードは書ききったと言える。これが皆様の読みたかった世界の真実だとばかりに、埃の嵐が巻き立つ荒野に真っ赤な血が吸い込まれていく。こうして書かれるのが30歳にして自らの命を絶ったハワードのペシミスティックさの発露なのだろうか。それともエンタメ以上に人の生死を書ききってやろうという、真面目な精神によるものなのか、なんとも判別がつかなかったのだが、血で書かれた叙事詩に一読者としてただただ圧倒されたものである。

いやあ今回も血湧き肉踊るわ。野蛮な世界である。たまらない。あと3冊、何としても読みたいものだ。

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