2016年3月26日土曜日

Khmer & Livstid/Khmer & Livstid split

スペインのネオクラストバンドKhmerとノルウェーのクラストバンドLivstidのスプリット音源。
2016年にノルウェーのDisiplin Media、アメリカのHalo of Files、そして日本のLong Legs Long Armsからリリースされた。私が買ったのは3LAがリリースする日本仕様のレコードでダウンロードクーポンがついている。
まずはこの日本國限定版と銘打たれたEPの作り手の気合いの入れように驚かされる。印象的なアートワークはKhmerのMarioの手によるもの(Redsheerの「Eternity」のアートワークも彼の手によるのは有名な話)。パンクバンドなので歌詞は勿論非常に重要なファクターだが、それぞれのバンドの本国の言葉(スペイン語とノルウェー語)はもちろん、世界を標準にリリースされている事もあり英訳、それから日本盤には日本語の訳がついている。ちなみに日本盤は曲のタイトルも和訳されている。例えばKhmerの「himno a las llamas」は「灼讃歌」である。熱すぎるぜ〜。

Khmerは10分の曲1曲のみ。
終始ストイックで劇的である。掠れ声で吐き捨て型のボーカルとその長い尺のなかに静と動を内包した展開を組み込んでいる事でやはりどうしてもブラックメタルとの関係について考えてしまうが、よくよく聴いてみるとどちらかというとポストハードコアというか、もっというと非常にハードコア的である事に気がつく。ポストハードコアというと例えばenvyのようにアルペジオや分厚い弦楽隊による美しくかつミニマリズムなどを導入した知的なアンサンブルが頭をよぎる。はっきりいってその美しさはこのKhmerというバンドからはあまり感じられなくて、なんならもっと粗野であるし、かっちり考え抜かれた構成は(粗野感といったのに矛盾しそうだが実は全然普通に両立する概念だと思う)様式美を高度な技術で実現しようとするメタルに通じるところがある(のでよりブラックメタル感というのが演出されているのだと思うのだ)けど、コールドという言葉で形容される事の多いブラックメタルにはない決定的な熱さがあってそれは非常にハードコア的だと思う。例えば中盤テンポが落ちるところから勢いを盛り返すところなどは鳥肌ものだ。手数を増やして(個人的にはキンキンいうシンバルの乱打に目が無い)加速して行くところは非常に肉感的な印象で、つまるところハードコアの野性味とメタルの表現力を両立させ手いるバンドなのだと思った。

対するB面、LivstidはこれはまたKhmerとは結構雰囲気も音楽性も違って驚く。同じくクラストと行っても自らを「Crusty d-beat punk attack」と称する彼らはもっと分かりやすくかつどこまでも直球ストレートである。のどに引っ掛ける様な掠れたボーカルは通じるものがあるが、メタルを通過したギターの音はより直感的・現実的に重たい。曲はほぼほぼ1分台でとにかく突っ走りまくる。うえ〜〜!?と驚いていると2曲目で滅茶苦茶おとこくさくかつキャッチーなコーラスワークが耳に突き刺さってくる。思わず笑ってしまうのだが、これは非常にカッコいい。馬鹿みたいに速い訳ではないけど、それでもスピードを一切落とさず終始走りっぱなし。かなりの恐もてなのだが、前述のコーラス(まさに必殺というかんじ)、さらにギターのラインが非常にメロディアスで思ったよりずっと聴きやすい。私かなり好きですね。

結構音楽性が違うバンドのスプリットなのでこれは中々難しいと思った。共通点を求めて歌詞を見てみると、Livstidは全くぶれない単純明快かつメッセージ性の強いパンク調のもの。一方のKhmerは何回とまでは言わないが抽象的な概念もつづられていて自戒的な意味合いも読み取れるから共通点というのはやはり一筋縄では行かない。恐らくこの空隙を違和感無く埋めているのが両者のバンドに共通する熱量では無いのだろうかと思うのだ。それはレーベルオーナー水谷さんがやはり熱量高くぶち上げた激情という要素なのかもしれないな…と思った次第。
趣を異にするバンドをひとまとめのスプリットにして両方カッコいいのだから、クラスト、それからハードコアというのは懐の広いジャンルだなと思う。

Khmerは来る4月に遂に来日という事もあって気になっている人は是非どうぞ。オススメです。

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