2016年3月19日土曜日

アンドレアス・グルーバー/月の夜は暗く

オーストリアの作家による警察小説。
「夏を殺す少女」を読んで以来のファンなので期待大で購入。

大聖堂で異常な殺され方をした女性。彼女はドイツはミュンヘンの市刑事警察機動捜査課の捜査官ザビーネの母親だった。離婚した父親は嫌疑を疑われ警察に拘留されている。父の無実を信じるザビーネはドイツ連邦刑事本部局の事件分析官マールテン・S・スナイデルと無理矢理タッグを組み事件に挑むことに。ところがこのスナイデルは頭脳は一日市場秀でているものの口と素行が最悪という変わり者だった。

ドイツ/オーストリアを舞台にした刑事物。主人公たちがおうのはいわゆるシリアルキラーである。物語的には結構派手。
男女のバディもので、男性の方は変わり者。警察小説にでてくる警官というのは一般人のカテゴリに属しながらも大抵悩みや問題を抱えていたものだが、(犯罪心理捜査官セバスチャンもそうだったが)最近は天才+人格自体に大きな欠陥があるというのが流行なのかもしれない。この物語のスナイデルはいわゆる天才なのだろうが、極度の口の悪さと人嫌いはよいにしても、群発性頭痛持ちでマリファナと針治療を好む超高圧的な変人である。日本のありきたりな表現ではドS上司とか、適当でありがちな形容詞でもってくくられてしまいそうなキャラクターの立ち具合だが、作者グルーバーは非常に上手く彼を掘り出している。たとえば辛い過去があってどうこうというような湿っぽさは皆無であって、最後の最後までスナイデルというキャラクターの真意はザビーネも読者も掴みきれないのである。ここは良いなと思った。
シリアルキラーを追っかけるバディという話のぶっとい筋はそのままなのだが、作者自身も言及している通り物語の軸として心理療法(カウンセリング)が非常に重要なファクターになっている。スナイデルは謎の多いキャラクターであるが、もう一つの大きな謎である犯人に関しては心理療法を通して一体彼が何者で、なぜこのような連続殺人に手を染めたのかというのが、非常に上手いじらされ具合で捜査の進展とともに少しずつ詳らかにされていく。ザビーネの他にも事件に巻き込まれその核心に迫っていく探偵役がいて、別の視点から事件の全容を暴いていく。同様に見立てられた連続殺人とシリアルキラーという異常性と男女関係もっというと浮気の問題が盛り込まれていたりしてかなりの盛りだくさん。500ページ超のボリュームにぎっしりと詰まっているのだが、酒寄進一さんの読みやすい翻訳もあって物語にのめり込んであっという間に読める。
アンドレアス・グルーバーという人は恐らく持ち前の明るさというか前向きさという様な持ち味があって、残酷描写は目も当てられないくらい陰惨だが、物語全体としては非常に上手くからっとまとめる。母親を殺されたザビーネ、警察や夫に酷く裏切られたカウンセラーとなかなかな難物ぞろいなのだが、彼らの心理描写は非常に端的かつ簡明で物語の勢いはちっとも弱るところが無い。テンポよく最後まで一気呵成になだれ込むまさに得んため小説のお手本の様な構成になっている。一定の上品さというのが意識されていて、描写が下品になりすぎないのも良い。

後書きを読むとザビーネとスナイデルの物語はこの本いこうも継続的に書かれているようだ。続刊の翻訳に期待。血が流れる面白い小説を読みたい人は是非どうぞ。

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