イギリスの作家による短編集。
元は1997年に国書刊行会から出版されていたものに新たに2編追加して筑摩書房から再販されたもの。
何となくアンニュイな雰囲気の女性が目を引く表紙が気になって購入。多分作者の短篇は他のアンソロジーで読んだ事があると思う。
「モダン・ホラーの極北」という帯に踊る文字が中々煽ってくるが、モダン・ホラーといっても例えばスティーブン・キングなどに代表されるモダンなホラーとは明らかに一線を画す内容というか話の作り。まあ収録されている作品はどれも1960年代に発表されているからモダンといっても統制とはちょっと隔たりがある印象。帯には「幽霊不在の時代に新しい恐怖を書く〜」と書かれている。なるほど。
一通り読んでみるとこれは古典的な英国怪談の衣鉢を継ぐもので、そういった意味だとゴースト・ストーリーの列の後ろに並ぶものであり、クリーチャー的、あるいは刺客に特化した様な恐怖ではない。不穏、不安という言葉がしっくりくる灰色の恐怖譚である。
幽霊(と思わしき何かしら超自然的な存在)が出てくる物語があれば、行きている人間しか出てこない作品もある。幽霊というとその背景にこそ面白さがあるもので、それ自体幽霊の弱点になったりするものなのだけれど、エイクマンの書く怪奇には原因がはっきりと提示されない場合が多い。読み終わっても結局あれは何だったのかは分からずじまいで放置されてしまう。まさに霧の中。人間分からないものが怖い訳で、恐怖を原因不明のままにしておくのはなるほどそういった意味では理にかなっているし、実際そういった効果を狙った構成なのだろうが、エイクマンの短篇はもっと怪異のための怪異という印象。つまり怪異そのものを書くのが目的でそれはその性格上大変不条理なのだ。怖がらせる装置というよりは図鑑に近く、その奇妙な生体?を読者はおっかなびっくり眺める事になる。
個人的には婚約者の郊外にある実家に行った女性が怪異に巻き込まれる「髪を束ねて」が良かった。というのもこれは一番この短編集では分かりやすいのではなかろうか。主人公がイギリスの郊外の村の中から段々と人気の無い山中まで散歩していく過程が、そのまま異界に繋がっている道筋なっていて、現実に悪夢が混ざり込んでいく過程に非常にゾクゾクさせられた。この悪夢がちょっとおとぎ話の様な色彩豊かさがあってそれが異様さを引き立てている。エイクマンはとにかくその描写は細かく、視覚だけでなく触覚、それから嗅覚と五感のすべてを通じて得た空気、異様な風景の描写の事細かさ。それらがあって異様な風景を眼前に出現せしめている。
じっとり怖い恐怖譚に目がない人は是非どうぞ。
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