アメリカのブラックメタルバンドPanopticonとドイツはミュンヘンのブラックメタルバンドWaldgeflüsterのスプリット音源。2016年にスウェーデンのNordvis Produktion(自らをpoor music for poor peopleと標榜するレーベル。)からリリースされた。私はbandcampでデジタル版を購入した。お目当てはPanopticon。因にざざっとしたアートワークはPanopticonのA.Lunnの手によるものとのこと。
全4曲収録でそれぞれ2曲。面白いのは双方ともに12分を越える大曲と3分から4分の比較的短い(まあ短くはないんだけれども)の曲のセットになっている。
まずはWaldgeflüster。
このバンドの事は全く知らなかった。2005年に結成され既に3枚のアルバムをリリースしているとのこと。バンド名を訳してみると「森のささやき」とのこと。ほう。FBのバンドの説明を見るとこう書いてある「情熱的で深遠で自然に結びついている」。なかなか分かりやすい。いまもこういうのか分からないけどカスカディアンな音を鳴らすブラックメタルバンドである。最新作では一人高見に解脱した感のあるWolves in the Throne Roomが一番有名だろうか、このジャンルでは。ブラックメタルという音楽形態をとりつつも、サタンや神、血みどろの人間界から遊離し、電気とテクノロジーを使うという矛盾をはらみつつも自然を賛美する曲を、長く複雑で攻撃性やイーヴィルなシャウトを盛り込みつつもなんとも雄大かつ美しさに満ちた曲を演奏するという、彼らである。Panoptioconもそちらの影響色濃いバンドなのでそういう流れでばっちりハマったスプリットってことになる。
儚いトレモロが一気になだれ落ちるイントロでばっちりこちらのハートの琴線を内ふるわせてくる。何と言ってもちょっと(同郷のエモバンドMournfulを彷彿とさせる様な)なよっとした感のある内省的かつ憂いを含んだボーカルが素晴らしい。ナイーブで大人しいヤツがぶち切れたみたいなシャウトも攻撃的でありながらもバックの演奏陣の美麗なトレモロに不思議にマッチするから不思議。早々にストリングスを持ち込んでくるあたり、完全に優しく殺しに来たりしている。ドコドコ高鳴るドラムにストリングが被ったらそりゃもうこっちとしては感涙に拳を振り上げるしか無いと行った有様である。あざとい。さらに男臭い落ち着きのあるコーラスワークまで入れてきやがるので琴線は崩壊状態。私は全く詳しくないのだがバイキングメタルというか、雄々しく高揚させる様なコーラスワークとキャッチーなメロディはそこら辺の影響があるのではなかろうかと思った。無骨なドイツ語のつぶやきがアコースティックギターとともにつま弾かれ、豊かなストリングスが彩る切ない幕切れも何とも余韻に満ちて素晴らしい。
一方のPanopticon。
長い尺の曲は「Roads to the north」を作っている間に出来た曲だそうで、彼の長男に捧げられたもの。Håkanというのは息子の名前だそうな。
Waldgeflüsterよりは太くぶ厚い音でより野性味があふれる。こちらのボーカルは完全にブラックメタル然とした堂に入ったものでやはり貫禄という点ではこちらに分があるか。表現力という意味では声意外のファクターがやはり非常に饒舌。トレモロを基調としながらもミュートやハーモニクスなどのブラックメタルではあまり見られないメタルの要素をうまーく取り込んでいると思う。「Roads to the north」を聴いた時にその表現力の幅が広がった事に驚いたものだけど、同時期に制作されたこの曲もやはりその流れを大言する様な感じで、「Autumun Eternal」はそれらの技巧をもう少し自分流に使い込んでいる印象だったけど、まだまだこちらではそれらが暴れている感じ。これはこれで喧しくカッコいい。ひとしきり暴れまくった後にアコースティックギターに子供の声を重ねてチルアウト、リバーブのかかったギターがつま弾かれて後、再び音を分厚くする展開は非常にドラマチックだ。ここでは敢えてその速度を落とす事で圧倒的に叙情性が高まっていると思う。前半は派手なギターも後半ではメロディアスなトレモロに徹している事に気づく。こちらで噛み締める時間があるからなのか、やたらと雄大なリフが耳に入ってくる。そこから連続的な再加速をしつつ曲は終了。素晴らしいぜ。
激しい音楽性の中にも深い(父性)愛を感じさせる。雄大な自然というよりは個人的なものがその対象になっている分より真に迫っているのかもしれぬ。
Panopticon目当てで実際素晴らしい出来なんだけどWaldgeflüsterもとてもカッコいいな
この手の音楽が好きな人は是非どうぞ。オススメ。
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