翻訳家でエッセイストでもある岸本佐知子さんがセレクト、訳した短編を集めたアンソロジー。岸本佐知子さん自体は知らなくて、多分翻訳も読んだ事が無いと思う。Amazonでお勧めされたのを気になって買ってみた次第。
なんといってもタイトルである。「居心地の悪い部屋」。インパクト大。このタイトルは岸本佐知子さんが付けたものだと思う。収録されている作品のテーマを端的に表現しており、なによりその言葉の語感の印象も強く良いタイトルだと思う。
全部で12の短編が収録されているのだが、敢えてカテゴライズすればホラーか幻想の分野だろうか。イマイチはっきりしないのはどの作品も独特の味があるのだ。恐怖や不安を扱っている作品が多いし、たしかに血も流れるのだがどばどばではないし、流血沙汰自体を書いている作品は無い(と思う。つまり恐怖小説ではあるが流血行減は手段にすぎないという書き方)。それでは幽霊かというと確かに超常現象を扱っている短編はあるし、なんとも常識(や科学)で説明のつかない物語もある。しかしはっきりと異形のものどもが出てくるかと言われるとそうでもない。ようするにどれもはっきりとしないところがある。はっきりとしないのだが、それは言葉にする事が難しいわけで怖くない訳では全くないのがその持ち味だ。(カテゴライズが困難であることはどれも凝った物語である事の証左であるかもしれない。)不条理と言っても良い。シュールとは少し違う。どれもある程度(8割かそれ以上くらいの印象だが)は非常に現実的である。ただそこから先が霧の中だ。物語によっては唐突だったり、それとも始めから少しだけずれている。とらえどころが無い。ただはっきりと説明できないし、不安である。そんな嫌らしい短編が集められている。ここでもう一度タイトルに戻る。「居心地の悪い部屋」である。たとえば「恐ろしい部屋」「血塗られた部屋」「呪いの部屋」「暴力と殺人の部屋」「悲しみと苦しみの部屋」なんかとは一線を画すのだ。なんか直接的ではないけど、不快である。可能ならば立ち去りたいのだが、何となく説明できないから言い出しにくい、そんな感情が「居心地の悪い」に集約されている。
ちょっとこれは問題がある書き方である事は自覚しているのだが(理由は後述)、ひょっとしたら女性の方が選定しているからこういうラインナップになったのかなと思った。というのもこの手のジャンルは大好きだが、この本は勿論ホラー・幻想のカテゴリに入るものの今まで読んだアンソロジーと一線を画す。思い返してみると私が読んだアンソロジーの編者は男性が多かったように思う。中村融さんや東雅夫さん、西崎憲さんなどなど。現実的なのに(ここが重要!)全体的にはっきりと言葉で表現しにくい、というのは女性っぽく思えた。男性はよくも悪くも分かりやすいのかも…と思うのだが、単に私の読書量が足りないので女性である岸本佐知子さんのこれ一冊で判断するのはいかにも早計であるな。じゃあ書くなという話なのだが、なにとぞご容赦ください。女性が編んだアンソロジー、もっと読みたいものです。
何とも言えない気分になって、そういうのは嫌いではないので楽しく読めた。もやもやしたのがOKってひとは是非どうぞ。
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