2016年1月31日日曜日

Anopheli/The ache of want

アメリカはカリフォルニア州オークランドのネオクラストバンドの2ndアルバム。
2015年にAlerta Antifascistaからリリースされた。
私が買ったのはデジタル版でこちらは現時点ではBandcampでname your priceになっている。
元Light BearerのAlexが新しく始めたバンド。
メンバー構成が変わっていて6人編成でオーソドックスな楽器陣に加えてチェロ担当とアコースティックギター担当が一人ずついる。ロックだろうがメタルだろうがストリングスをバンドサウンドに導入する事自体は珍しくないだろうが、あくまでも追加のアレンジという感じで選任の奏者がいるのはあまり聴かない。(名前は忘れたけどバイオリン担当がいるパンクバンドがいた様な気がするな…)アコースティックギターに関してもギタリストが兼任というのが通常だろうが、このバンドでは選任。

オフィシャルではエモクラストと名乗っていて、全く知らない人に説明するにはこちらの方が音楽性が分かりやすいかもしれない。クラストというと苛烈な音楽性を想像するが前述の楽器陣も加わって非常に表情豊かな音楽をならしている。勿論なんといってもクラストなので激しさもあるのだが。
全6曲収録されていて、アコースティックギターが美しいインストをのぞき後の5曲はすべてだいたい7分台。スラッジの要素は勿論あるのだが牛歩っぽい遅鈍さはなく、どちらかというと練られた曲展開で激しくも聴かせるハードコアといった趣。インテリジェンスというとどうしてもメタリックで頭でっかちのイメージもあるのだが、個人的には非常に知性的な音楽だなと思った。こういうとき出自ハードコアがだから技巧自慢にならないのがとにかく好印象だ。同じ事をメタルバンドがやったら曲の長さは倍になるんじゃないかな。(勿論それはそれでカッコいいのだろうが)
いかにもクラストな男臭いだみ声ボーカルにギャアギャアしたボーカルが絡むツインボーカルは飽きさせない要素だが、歌のメロディ性はどちらかというとそこまで強くない。ボーカルも楽器の一つという感じで曲全体で聴かせるイメージ。アンサンブル全体で突っ走るのがカタルシスだが、常に全開で突っ走っている訳ではなく緩急をつけて高低を付けている。ためる様なアンビエントパートの後の疾走はこみ上げてくるように熱い。アンビエントパートはアコースティックギターを押し出したりしていてポスト感の影響も色濃いが、そちらのジャンルに比較すると短めで良い意味で凝っている訳ではない。静からの動はなるほど威力強めだが、なんといってもチェロがこのバンドの叙情性を飛躍的に高めてくる。とにかく伸びやかでまろやかな輪郭の、太く暖かい音がバンドの外郭をぶわっと一枚分厚く覆っている様なイメージで、こいつがエモーショナルさを倍加させている。弦楽隊のメタリックでエレクトリックな音とは好対照だし、チェロというのは(弾き方もあると思うけど)出す音が連続していて、途切れる事無くその音色を変えていくから、ドラムやギターなどの緩急を意識して旧譜やミュートがある弾き方と対照的なんだよね。ベースっぽいけどやはり途切れる事もあるそれとは一線を画す。
エモーショナルというのは感情的という意味だけど、このバンドの場合は激しさでもって一つの感情に特化したというよりは、複雑な感情をバンドアンサンブルとチェロなどで表現しようとしているように感じた。クラストの持つ激しさがにじんで(こう書くと悪く聴こえるかもだけどここでは良い意味で使っています)、色んな感情が溶け出しているようだ。抽象的になっているのかもしれないが、その分激しさだけでは得れない境地で訴えかけてくる。

乗り遅れた感じ聴いてみたが話題になるのも納得の出来。まだの人は是非どうぞ。

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