イギリス(アイルランド)の作家による探偵小説。
原題は「The Beast Must Die」、1938年に発表された。
私が買ったのは表紙がリニューアルされた再発版。早川のオフィシャルサイトで表紙とタイトルに惹かれて購入。
ニコラス・ブレイクはペンネームで本名はセシル・デイ=ルイス。詩人として活躍していた。小説を書く時はニコラス・ブレイクの名前を使っていたのかな?
ちなみに「野獣死すべし」というと大藪春彦の小説とそれを元にした映像作品が有名らしいが、こちらの本が元ネタになっているようだ。私は大藪春彦の方は全然知らない。面白いのはこの「野獣死すべし」という印象的なタイトルはかの江戸川乱歩が考えたらしい。素晴らしいネーミングセンスだね。
推理小説家フィリクス・レインは愛する息子をひき逃げで殺された。妻は死んでいる。警察の捜査は遅々として進まず独自の捜査を開始したフィリクス。犯人の目星をつけ、彼を殺すべく、緻密な計画を進めていく。
特に予備知識無く買ったのだが、この本はナイジェル・ストレンジウェイズという探偵が活躍するシリーズの第4作目。いわば探偵小説なのだが、ハードボイルドというよりはミステリーっぽい雰囲気。ただ面白いのは前半が上記あらすじで登場したフィリクスが殺された息子の仇討ちを進める独白体の日記になっていて、後半から探偵ストレンジウェイズが出て来て事件に挑む。いわば犯罪者サイドと探偵サイド双方の視点から同一の事件を眺める事が出来る。前半は小説家のフィリクス、つまり一般人、それも力自慢でも裏の世界を周知している訳でもない文学青年が復讐、つまり殺人という途方も無い犯罪に手を染める過程が彼の心情を丁寧に描写しつつ下記進められる訳で、一歩一歩獲物に近づいていくこの犯罪が果たしてどういう結末を迎えるのかという緊張感はただならぬものがある。
一転して変わり者の探偵ストレンジウェイズに主人公が移動した後半は、いかにも天才肌な探偵は明晰な頭脳でもって真相に近づいていく面白さがある。ミステリーと言ってもいわゆる本格ものの証拠とパズルの様な緻密な謎解きに主眼が置かれたものとは大分趣が異なる。もっと知的というと語弊があるが、ある犯罪とその周囲にいる人物たち一人一人の個性とその心情に焦点が当てられている。人情小説というのではないが、ストレンジウェイズというのは誰がこれを出来たかというのはそのある人の考えを理解して改名しようと言うのであって、こういう書き方をするミステリーというのは私はあまり読んだ事が無いので面白かった。謎解きというよりは復讐といびつな家族を軸にした人間関係に踏み込んでいくものだから凄惨と嫌らしさ、そして何とも言えないやるせない暗さがあって、それは変人ストレンジウェイズとブラント警部のキャラクターで陰惨になりすぎないもののやはり何とも言えない味わいがある。それは結末においてある意味完成されている。
なんともいえない味わいが光る一冊。変わり種のミステリーが好きな人はどうぞ。
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