2015年9月22日火曜日

山尾悠子/増補 夢の遠近法 初期作品集

日本の幻想文学作家による初期作の短編集。
作者は作家生活の中で一回筆を折った事があり、かつては幻の作家と呼ばれた事もあるとか。最近では執筆活動を再開したり、こうやって過去作が再販されたりと現実世界に戻って来たとの事。このジャンルでは有名な人で私はちくま文庫から出た「ラピスラズリ」のみ読んだ事がある。冬ごもりするという奇妙な物語でたしか不思議な絵画に入り込む様なそんな感じだった。それぎりになっていたがこの間読んだ「皆勤の徒」の後書きにも影響を受けた作品・作家の一人としてあげられていたため、よしもう一冊となった次第である。
昭和51年(作者は当時まだ大学生だったそうだ)から昭和63年までに発表された13作品を含む。元は国書刊行会から2000年に発売された「山尾悠子作品集成」からいくつか作品をピックアップしたものが2010年に同社から発売され、さらにそれに作家本人の手による作品解説を追加して、筑摩書房から発売されたのがこの本。よくわからんが版元や形を変えて発売されているという事はそれだけ読みたい人が多いのだろう。

幻想文学というのは幅広いジャンルで(本当のファンには怒られるかもしれないけど)例えば本格ミステリーだったり、ハードな近未来SFみたいな緻密で正確な説明描写は必ずしも必要でないから、とにかくなんでもあり!のような思い込みがあって、この本でも幻想であるという共通点を持って様々な空間時間に広がった物語が集まっている。現代に発生した怪談めいた話もあるし(落ちの付け方が女性的で大変良かった)、異形の宇宙を扱ったSF要素のある作品もあれば(初期の三作品は「SFマガジン」に掲載された)、フリークス出てくる”どこか”を扱ったthe幻想な物語もある。
帯にこう書いてある「世界は言葉で出来ていると」。これは作中の文の抜粋なのだが、この作者というのは言葉に異常なこだわりを持っていて、リズムは勿論、とにかく文体がもの凄い。さらっと読める現代小説風のものもあれば、修辞と読めないくらいの漢字に装飾された荘厳なもの。語り口をとっても日常を語る柔らかいものから、歴史書を読んでいる様な錯覚を覚える固いものまで。何かというと恐らくこれが幻想を生み出す魔法の様な技術(のひとつ)なのだろう。よく考えてほしいのだが、異常な世界は中々普通の言葉や文体で語りにくい。私はメタル音楽が大好きなのだが(何でもメタルで例える私!)、剣と魔法で邪悪な竜に立ち向かう話(あんまり聴かないけど)、薄暗い地下室にぶちまけられた臓物の生々しさ、誰もいなくなった廃墟等々異常な情景をテーマにしている事が多いのだが、そんな状況を説明するのにはやはり荒々しくもおどろおどろしい音楽(時には衣装なども含めて)が必要なのだ。そう考えるとこの文体の持つ現実的な力に気づくはずだ。つまり幻想文学を角煮は相当の技量が必要になるのかもしれない。さっきは何でもありと書いたがきっと書き手を選ぶのだろう。
自作解説での作者が引用しているのをさらに引用するとかの澁澤龍彦さんは「幻想文学ははっきりとした文・表現で細部まで緻密に書け!」というようなことをおっしゃっていたようでなるほどなと思った。幻想というと夢の様な、模糊としたと思うのだが、この本で書かれている一流の幻想譚はすべて明確な分でそれこそ細部まで書き込まれている。土台がしっかりしていなければ架空の不思議は存在できないのだと考えると面白い。
全体的に付きがモチーフになる事が多い、まさに夜の文学であると思う。冷たく青い光に照らされている荒涼と世界に入り込む様な楽しみがある。
幻想文学が好きな人は是非どうぞ。

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