アメリカの作家による冒険小説。
2009年に発表された。帯には小島秀雄さんの推薦文が書かれている。
CIAを解雇。今では見つけ次第射殺せよと命令が出ている凄腕の暗殺者”グレイマン”ことコート・ジェントリー。今は民間の警備会社の裏の仕事を引き受けている。自分が暗殺したナイジェリア大臣の兄で大統領がグレイマンの首を要求。大統領と蜜月関係にある企業はグレイマンの暗殺のため世界の精鋭の暗殺チームを招集し、彼を狙う。雇い主すら自分を裏切った状況でグレイマンは生き残る事が出来るのか。
だいたいハードボイルド小説、男の世界へようこそ的な小説というのは男の子のファンタジー小説でもあるんだけど、この本もご多分に漏れず、というかさらにそっちを極めた様なストーリーになっている。ただし馬鹿なと切り捨てられないくらい膨大な知識とスピーディな展開と巧みな文体によって一級のエンターテインメント作品に仕上がっている。
世界中から狙われている暗殺者グレイマン(グレイマンというのは目立たない男という意味)は金で殺しを引き受ける汚れた人間だが、悪人しか殺さない。銃器や爆発物の扱いに長け、身体能力に秀でる。常に冷静、特には冷酷で悪人を殺すのに一抹の躊躇さえ魅せない非情な男である一方、女・子供、特に罪のない人間は危険を顧みずその命を助けようとする。まさに男が憧れる男の中の男。そんな憧れが具象化した様な男が主人公。こんなのだとこんなヤツいねーとか、完璧過ぎて機械みたいで感情移入できなかったりするのだけど、このグレイマンに関してはそんな事は無いのが作者のすごいところ。まずは弱気を助け悪をくじくの精神がやっぱり人の歓心を買ってしまうところはある。それから十分に感情的である事。それから結構ドジを踏む事。さらに個人的には美女といい感じにという展開も皆無ってところも良かった。(そのかわり人質になった双子の姉妹と心を通わせる要素が入っている。)
感想を読むとチラホラグレイマン氏ちょっとドジすぎない?っていう愛のある突っ込みもあるんだけど、どんなプロフェッショナルでもきっと不測の事態はあると思うし、パニック寸前の頃路を制御して、そこからいかに立ち直るのか、というのが戦術的な描写も精緻に書き込まれていて、それこそがこの小説の魅力だと思った。
それから敵役ロイドもよい。功を焦る。自信過剰。自分をひとかどの人物だと思っている。下衆。まさに小物役満という感じで読者を苛立たせる事請け合いである。(この手の話は敵役が嫌なヤツかつ魅力があると物語がぐっと豊かになると思う。)
後は道中文字通りぼろぼろになっていくグレイマンだが、その負傷の様子が生々しく痛々しい。文字なのにむむむと思わず顔を背けたくなる様な描写が結構あった。筆者は勉強家であるし、描写も全体的に視覚的に優れているなかなか上手い人だと思う。
男の憧れを一気に引き受けた暗殺者グレイマンはなにより自分の信念を曲げないところがその魅力。彼が最後まで立っているのか、そんなの答えは決まっているのだがそれでもページをめくるのが止められない。そんな小説であった。
銃火機好きな人は是非どうぞ。
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