知っている方ももいるだろうが椎名誠さんという人は作家には珍しい(のかな?)アクティブな人で、それも世界の色んな僻地に旅に出るのが大好きという。そんな椎名さんが旅先でとった写真をちりばめて、その写真にまつわる旅行譚を書く、というのがこの本。
私は椎名誠さんの書くSFが大好きで、漫画家の弐瓶勉さんの元ネタ(登場キャラの名前を取って来ているはず。)の一つという事で「武装島田倉庫」を読んで以来のファンである。椎名誠さんの書くSFは技術の進歩した未来で世界を著しく荒廃させた大戦争がおき、その後生態系が一変した荒々しい世界で繰り広げられる事が多い(北政府、ねご銃など単語だけでワクワクしてくる!)んだけど、その世界というのがはっきりって他のSFとは一線を画す筆致で書かれている。とにかく荒々しく生々しい、人間以外の自然が恐ろしく元気である。微妙に異国情調のなる世界で所謂脇役の人たちがもの凄く生き生きしている。いわばむせ返る様な生き物のにおいが立ちこめてきそうな迫力のあるSFなのである。この独特の世界観はちょっと日本国内外に問わずちょっと無いんではなかろうか。まさに唯一無二の世界観。そんな魅力の秘密はきっと作者椎名さんの旅好きに由来するのであろうと私はにらんでいた訳で。つまり実際に見聞きした自分の体験をその本質をそのままに表層を自分なりに作り替えて書いているのでは、とこう思った訳だ。だからこんなにも呼吸している世界がかけるのだろうと。そういう訳でこの本を手に取った訳だ。
目的地毎に章が分かれていて、そのサブタイトルをみてみると「チベットの怖い目をした仏さまにまた会いにいきました」「柔らかい砂の海を進んでいくと塩の川があった。」などなど。中身の方もいかにも椎名さんらしいゆるーい優しい筆致で訥々と書かれている。思わずいやーいやされるなーと思って読んでしまうのだが、よくよく旅の現場を想像しているけど、世界の僻地(というと実際に棲んでいる方に取っては大変失礼にあたるのだろうけども)である。水や電気だって無いところもある。砂漠の真ん中だったり、大草原の真ん中だったりする。トイレなんて無いし、多分でっかい虫もすごい沢山いるんだろうと思う。椎名さんはさすがにそんななのには慣れてしまっているのだろうから、わざわざそんな事を書いたりはしないのだろうが、実際にはただ美しいだけ、ただ牧歌的なだけではない、現代消費社会の象徴の様な日本で住んでいる私たちからしたらかなり過酷な生活が、そこにはあるのだろう。それはきっと大変なんだろうが、椎名さんはそんな環境を見てもそこにある良いものや、すでに日本から姿を消しつつあるもの消えてしまったものを見いだし、それらを慈しんでいるのだろう。その説教臭くない思いがすっと私の様な人間の心にもはいってすとんと落ち着くのだ。なんだか言いようも無く自分が過ごし恥ずかしくも感じる。
椎名さんは写真大学を中退しているから元々写真が好きだったのだろう。そんな椎名さんの師匠にあたる人が後書きを書いているのだが、椎名さんの写真は素人であるけどと書きながらもその魅力について語っている。なるほどという感じで、たしかに上手いなと思わせる様なものではないのかもしれないが、私個人的には風景の写真もいいんだけど人が写っている写真を撮るとなると椎名さんは良いものを取るなと思った。どの人物も自然な表情で、椎名さんは人を緊張させずに写真を撮るのがきっと上手いのだろうと思う。そこには遠い異国の日常が時を止めて閉じ込められている。それがたまらなく魅力だ。なんだかノスタルジーを感じてしまう。一度も言った事の無い土地の一度もあった事の無い人たちの笑顔の後ろ側に、彼らの人となりと生活が垣間見える様な気がするのだ。
椎名誠さんの小説が好きな人は是非どうぞ。それから旅にいきたいけど時間がないなあって人も是非どうぞ。とても面白かったので私は何かまた別の旅にまつわる椎名さんのエッセイを読もうと思っている。
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