2015年にInterscope Recordsからリリースされた。
西海岸の新しい王者、Kendrick Lamar。私も遅まきながらたまたま手にした前作は大変良く聴いたもので、迷わずこの新作にも手を伸ばしたのだった。発売が1週間前倒しにされたが、私が予約したCDはなんか発売日が変わらずに届いた。
なんといっても前作「Good Kid, M.A.A.D City」は140万枚売り上げた。重圧も半端無い環境で作られた今作は果たしてどんな内容になっているのか。
再生ボタンを押すとBoris Gardinerの「Every Nigger is a Star」を大胆にサンプリングしたイントロが流れる「すべての黒人はスターなんだ」というメッセージがレトロ感あるホーンに彩られている。なんとなく尋常ではない予感。そこからあっという間にこのアルバムを開始させる「Wesley's Theory」。Lamarのラップが始まった瞬間マジでぐっと持っていかれる。聴いているものは否応無しに彼の世界に引っ張り込まれる事になる。前作に比べるとやや掠れた様な声は成熟を思わせる。相変わらずリズミカルにはれる様な波のあるラップは気持ちよい。よくよく聴いてみると中盤以降のぐいぐい曲全体が鳴動する様な展開にはかなりの種類の音がふんだんに使われている事が分かる。削ぎ落とすのが信条でもあるヒップホップでは異色である事が分かる。
全体的に見てみると音の使い方が結構前作とは変わっていて、一言で言うとより音が生々しくなっている。というのは圧倒的に生音を使っている(デジタル的に出し手いるかもしれないんだけどそこは分からない。)比率が増えている。前作が冷徹な電子音で構成されていたという訳では全くないのだが、今作はよりジャズっぽさが増している。ホーンの使い方は一番分かりやすいだろうが、特にベースラインも横で弾いているかの様な生々しく、艶やかである。音の使い方はまろやかでどんなメッセージをはらんでいようとも耳ざわりはとてもここち良い。それは人の声から出てくる所謂サビ(フックというのかな?間違ってたら申し訳ない。)はよりメロディアスでLamar本人ではない事も非常に多い。多くは伸びやかでピースフルだ。楽しい気分になる。そんなお祭り的な雰囲気の中でもLamarのラップは冴え渡る訳で、他にどんな客演がいようと自分の仕事です、とばかりにラップを披露していく。このラップは前述の通り凄まじく、やや大人っぽくなった声質だが、やはり聴かせる。背後のトラックが派手になったけど全く負けていない。シングルかっとされた「KIng Kunta」なんかは結構攻撃的なヒップホップトラックで彼のスキルのすごさがすぐに分かると思う。今作では酔いどれラップも披露して芸の幅の広さをアピール(必要以上に技巧自慢している訳でもないんだけど。)。
さて札束を手にした黒人達が帆愛とハウスをバックに白人の裁判官を打ち倒しているアートワークに象徴している通りこのアルバムはLamarの強烈なメッセージが込められたアルバムである事は間違いない。私は一連の黒人射殺事件に代表されるムーブメントを背景にしたメッセージが込められているのかな?と思ったのだが自体はそう簡単では無いようでLamar自身の経験(妹が10代で妊娠した事や、地元コンプトンの友人が殺されてしまったことなどなど)が、彼自身の言葉で(ゴーストライターを使っているラッパーをdisっている)描かれている。それは相当に毒を含んでもいるメッセージなようでそれがこの聴きやすく格好いい音楽に込められているのだ。おっかない格好をしておっかない曲をやり不満を叫んだのがパンクスだが、パンクが反骨精神なら、一見奇麗なこのアルバムはスゲーパンクだって事にならないか?彼は自分の主張を聴いてもらうためにこの音楽性を選択したのだとしたら恐ろしい奴だと思う。このアルバムは音楽として完成されていてその背後にあるメッセージが全く押し付けがましくない。(これは私が英語や政治的背景を全く介さない俗物である事の影響も大きいと思うのだが)誰にだって主張はあるだろうが、彼はあくまでもミュージシャンとしてまず上質の音楽を大衆に提供するという事は非常に好感が持てる。私の様な愚者はその後彼の主張に耳を傾け始めるのだから、彼はとても賢い。
このアルバムに込められたメッセージがどんなものか気になる人はここやその他のサイトを是非見ていただきたい。(勝手にリンクしてしまったが問題あったらご連絡ください。)
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