アメリカ合衆国ヴァージニア州リッチモンドのポストハードコアバンドのディスコグラフィー。2018年に日本のLong Legs Long Arms Recordsからリリースされた。
City of Caterpillarは2000年に結成された4人組で、2002年に1stにして唯一のアルバム「City of Caterpillar」をLevel Plane Recordsからリリース。いくつかの音源を発売し、来日もしたが、2003年には早々に解散してしまう。その後メンバーはPg.99やDarkest Hour(!)などのバンドで活動。メンバーの居住地はバラバラになったが2017年に再結成し、いくつかのライブをこなした。2018年にはいよいよ日本に再来日を果たした。(私もライブを見に行った。)ただこの再結成は期間限定のものらしく、以降の活動は不明である。ひょっとしたら本当にもう活動はないのかもしれない。この音源はそんな再結成に合わせてリリースされたもので、音源をまとめたディスコグラフィーとデモ、ライブ音源を集めた音源の2枚組。影響を受けた日本のバンドメンバーによるCoCに関するインタビューや音源の紹介などが収録されたzineが同梱されている。
来日ライブで結構な衝撃を受けていて、言葉にしにくい激情ハードコアの全容といったらなんだが、その一端尻尾の先くらいは見えたのではと思った。(言葉で音楽のジャンルを完全に説明することはそもそもできないと思うが。)それは緊張感であった。ともすると凡百のポストハードコアバンドを聞いている時ならスキップしてしまうような長尺の曲の中の、すべてのパートに意味があるのがCoCなのだなと思った。単にそれ(思考停止したアート)っぽいアトモスフィアを演出するわけでも、その後の轟音展開への形式化した布石でもない。極限まで削ぎ落としたようなリフをシンプルに反復していくことが必要なのである。いわばトランスを導き出す前段階の儀式めいた。あくまでもバンドアンサンブルで、そして高尚になり過ぎないように統制したのがこのバンドなのではと思った。
音源を聞いてみると改めてライブの思い出が蘇ってくるとともに、あの時は気がつかなかった点にも目がいくようになった。まずは音が結構違う。ライブの時はまな板(みたいな板に2、3個張り付いている)エフェクターも驚いたがとにかくに音が生々しかった。音源だともう少しとっつきやすいハードコアサウンドになっている。逆に言うとライブはもっと音が狭く、鋭く、タイトである。
それから決して長い尺にこだわっているバンドではないこと。特にDisc2の名前すらないでも音源の曲を聴くと、いわゆるポスト的な展開は結構もうオミットされており、生々しくも荒々しいエモバイオレンスが展開されている。これがまた格好いい。そのストレートさはやはり瞬発的な攻撃力があり、やはりわかりやすさと言うのは(少なくとも私にとっては)大切な要素なんだと言うことがわかる。激情は思考する(もしくは懊悩する)ハードコアなのかな、と思っていたが、当たり前にストレートでシンプルなハードコアにだって悩みや葛藤はある。(Black Flagを聴くまでもない)形式的に言えばいわば挑戦するハードコアだろうか。デモがいつ頃(具体的に唯一のアルバムの後なのか前なのか、リリース自体はオリジナルアルバムと同じ2002年である)録音されたのかはわからないけど、彼らはこのストレートな音でも十二分の勝負ができたはずなのだ。でも正式な音源では異なるやり方でハードコアにアプローチした。彼らが劇場のオリジネイターではないだろうが、よりニッチな方向性を模索したのだった。(結果活動期間が3年しかないのに伝説になった。もちろんその短命さも物語としてそれを助長しただろうけど。)
形式化する事への反抗であり、それが世に受けて結果形式化してしまうと言うことは一つの悲劇であるかもしれない。(ただ後続のものがまず形から模倣するのは私は全然構わないと思う。と言うかそれしかできなくない?って思っちゃう。)今はジャンルが結構盛り上がっていて、ブラッケンドだ!テクニカルなアンビエントパートだ!ってなってそれらはやはり一つ一つが元は挑戦だったはずだから全然構わないのだが、ちょっとここで振り返ってみようか、と言う意味で再結成や今回のディスコグラフィーの発売は(特に私のような遅れてきたリスナーにとっては)非常に良かった。音楽を言葉で説明しようとするのはやる前から、そしてなされた後も失敗であることが確定である。だって音源やライブを聴いた方が早いんだもの。ライブを見たから特にそう思っているところはあるけど、まるで顔面に叩きつけられたかのようで、このリリースと来日は非常に面白い経験だった。
これ1枚で激情は十分!とは全く思わないけど、この手のジャンルが好きな人で聞いたことない人は是非どうぞ。
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