「お前が死ぬまで」というタイトル(レーベル名)はToday is the Dayのライブ盤「Live Till You Die」をなんとなく彷彿とさせる。このレーベルは年末恒例となっているイベント総武線バイオレンスも主催。去年足を運んだがデスメタル系のバンドがベテラン、若手まで名を連ねて非常に楽しいイベントだった。
今回このオムニバスはそんなレーベルが持つもう一つの側面、ハードコアにフォーカスし、国内で活躍するバンドを集めたもの。11バンドが1曲ずつ持ち寄りアルバムを構成している。収録バンドと曲目は以下の通り。
1.ANCHOR「物語」
2.CYBERNE「Thrash -独裁-」
3.Dead Pudding「Untended」
4.kallaqri「水仙」
5.NoLA「You're Useless」
6.REDSHEER「Reality To Disappear In The Letter Of Unnatural Fog/DistortionsContortions」
7.URBAN PREDATOR「THE NORMAL」
8.weepray「カルマ」
9.wombscape「枯れた蔦の這う頃に」
10.明日の叙景「花装束」
11.冬蟲夏草「催奇性と道化」
※レーベルのブログより拝借しました。
新潟で長いこと活動するANCHOR、大阪のCYBERNE、青森のkallaqriなどハードコアを演奏しているなら首都、地方関係なく全国からバンドが参加している。さすがにどのバンドもオリジナリティあふれる曲を演奏しており、ハードコアという軸はあるもののそれぞれにかなり印象の異なる趣がある。また一方で共通する軸は確かにあり、それがなんなのかというのを考えるのは非常に楽しい。
まず歴史的にというよりは個人的に激情ハードコアというとenvyのイメージがある(一番初めに触れてハマったのがenvyだったため)んだけど、そこからの流れを感じさせるぎゅっと詰まったカオティック(ハードコアの勢いを残しつつ曲の展開がある程度複雑である)で音の数が多い曲に文学的で批判するというよりは内面に切り込んでいき、また他者を肯定し励ます様な歌詞をちりばめ、それらを生かすために激しさに対してアンビエントなパートを入れるバンド達。前述のANCHORやkallaqriなどは比較的忠実にその潮流に乗ってさらにそれを自分たちなりに深化させている様に感じる。いわゆるEbulltion Records(3枚この間聞いたばかりであまり偉そうにできないのだが)との共通点もありつつも、より内省的なのは非常に日本的だなと思う。特に静かなパートには国内の方が力を割いているイメージ。
それからCYBERNEやNoLAの様なハードコアの激烈な推進力にパラメータを全振りしたかの様な突進力のあるエモバイオレンス系。EbulltionならOrchidなのかもしれないが、さすがに時代を経てこちらの方がメタルなどのジャンルも経由し咀嚼したブルータルなサウンドでエモさも大分非情になった。青臭さをはるか通り越しむしろバイオレンス。個人的にはNoLAの曲はこのコンピの中でも指折りのかっこよさだが、ハードコア感溢れるイントロと金切り声で「役立たず!」とリフレインする終盤が恐ろしいほどに感情的だ。
それからREDSHEER、weeprayの様に激情の流れを確かに感じさせながらも独自の道を深く切り込んでいくバンド。簡単にいうと迷いあぐねた結果明らかにどうかしてしまった様な捻くれた音楽を鳴らしている。REDSHEERのいきなりのアンビエントパートは美しも(それ故)不穏で、後半怒涛の展開になだれ込む様は相変わらず凄まじい。うねりのあるハードコア的な演奏は確かに伝統的だが、乗るボーカルが激情の流れからすると邪悪すぎる。別に人生はクソだ!と言い切るわけではないが、良し悪しを経て割り切れない人生に唾を吐きつつ未だに執着を捨てられない様な力を感じる。突き放した様な演奏とよく合う。REDSHEERが個人的には目当てだったのだが期待を上回るよさ。それからボーカルという意味では音源では初めて聴くweeprayも悩みすぎて現実社会とずれだした様な高音のボーカルと撤回の様な重たく叩きつけるギターリフが混じり合った曲で踏み外した感のあるハードコアを演奏している。爪弾かれるアルペジオもそうだがあえて外している様な不安定さがあって黒いハードコアという印象。
激情をモダンな音像でアップデートしたかの様なwobmscape、ポストブラックを感じさせる爽やかな叙情的なアルペジオが魅力の明日の叙景(もっとブラッケンドかなと思ったら予想よりハードコア色強くてむしろ大変かっこいい。)、オルタナ〜ニューメタル世代の怪しいごった煮さをスピーディに混ぜ込んだ忙しない冬蟲夏草の最後の三曲はこれからの日本の激情ハードコアを華々しく提示する様なメッセージ性を感じた。
現行の日本の激情ハードコア界隈を手っ取り早く知りたいのなら間違いない音源ではなかろうか。単純にこの手の音が好きなら買って絶対間違いない。非常に楽しめるアルバムなのでとてもオススメ。