2016年に日本のVirgin Babylon Recordsからリリースされた。
私はオフィシャルでカセットとCDがバンドルされたセットを購入。
VMOとはViolent Magic Orchestraの略。大阪の音楽集団Vampilliaのメンバーを中心に、
エレクトロニクス担当としてPete Swanson、MIX、シンセ、ビート担当としてExtreme Precautionsを迎え、さらにライブヴィジュアル担当のkezzardrixで構成されたバンド。
もともとVampilliaのリーダーであるStartracks for Streetdreamsさん(ちなみに楽器は全然弾けないんだそうだ、本当面白いしすごい)はブラックメタルに強い思い入れがあってそれがVampilliaの音にも色濃く現れていた。Vampilliaはブラックメタルプラスポストロックトいうコンセプトだが、VMOはブラックメタルは同じでもそこにテクノ・インダストリアルの要素を加えているそうだ。アートもコンセプトの一つであってそれゆえライブでのビジュアル担当や3台のストロボライトを用いているのだと思う。
なんとなくブラックメタル成分が濃いVampilliaかと思っていたのだが、実際の音を聞いてみると結構印象が違う。本当にVampilliaからポスト感を引いて、代わりにインダストリアル成分を足したというのがうまい説明だと思う。ポスト感にも色々あると思うが例えばブラックメタルだったらAlcest、激情ハードコアならenvyみたいにある種の(芸術的な)美しさみたいなのが自分のイメージ。確かにおふざけもするVampilliaだが「Endless Summer」に代表されるように激しさと切ない美しさが同居する曲をいくつも作っている。VMOではある種の余裕すら感じさせる贅沢なポスト感はなりを潜めている。全10曲で34分、コンパクトにまとめられた曲はどれも割れるような轟音で埋め尽くされている。嵐のようなトレモロリフはまさしくブラックメタルからの影響色濃いがプリミティブな儚さを感じさせるそれではなく、強靭で硬質な金属を生成したような主張の強い重たい存在感を放っている。そもそも空隙など見当たらないところに重たいドラムがさらに隙間なく並べられ、モコモコしたベースがみっちりと空間を黒く埋めていく。そこに金属質な高温のパーカッションが加わる。エレクトロニックと言わずに、テクノもしくはインダストリアルというのも、またなるほどと思わせる。力技である。
結果的に出来上がった音はAlcestなどに代表されるポストブラックメタル達に比べるとあからさまに主張が強すぎるしうるさすぎるし、かといってブルータルかつモダンなブラックメタルに比べると今度はやはりキラキラしている。バランス感覚が絶妙というのもあるだろうが、ありそうでなかったこの音の秘密はやはり”アート”なのかもしれない。というのも結構音を聴いていると面白いことに気づく。まず2曲目「Acts of Charity」に代表されるように轟音インダストリアルに半ば塗りつぶされているが、それでもやはりトレモロリフの言いようもないメロディアスさは隠しきれない。このメロディセンスはVampilliaで培った経験が活かされていると思う。そういった意味ではピアノの使用頻度もそれなりにあり、またそれらが硬質で容赦のない轟音に程よくセンチメンタリズムを持ちむことに一役買っている。またボーカルの登場頻度が実はあまり多くない。ボーカルはThe BodyのChip KingやMayhemのAttilaという強烈なゲストに加え、Vampilliaの面々が強烈な叫び声を披露している。クリーンはほぼ皆無でのどの枯れるような絶叫のオンパレードだが、実は終始それらが登場しているわけではない。むしろ結構演奏に力を入れていて、それを効果的に披露することを念頭に置いているような印象がある。ピアノだったり、演奏を前面に押し出すのはポスト感なんじゃねえの?という意見もあるだろうが、やはり個人的にはポスト感というにはそれらに特有の美しさが顧みられていない。美しさを凶暴さに無理やり覆い被せたような趣があって、所々不器用なアンドロイドのようになっているのだが、はっきり言えばそれが魅力なのだ。その言いようのない不恰好さがVMOの”アート”ではなかろうか。まだ名前のつかない不恰好さ、私はこの音源がかなり気に入っている。ひょっとして広く受け入れられたこのスタイルに名前をつけられ、新しいかっこよさになったらとても面白いなと思う。
コンパクトだが非常に挑戦的な音楽だと思う。軸になるブラックメタルに期待しているところがぶれていないからだろうと思うが、凶暴かつメロディアスでVampilliaが好きな人ならこのプロジェクトも楽しく聴けると思う。おすすめ。
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