アメリカはイリノイ州ピオリアのポストハードコアバンドの4thアルバム。
2016年にDeathwish Inc.よりリリースされた。
1997年に結成され3枚のオリジナルアルバム他いくつかの音源をリリースしたが、2008年に活動を休止。その2年後に再結成を行い、さらに6年という年月を経てリリースされたのがこの音源。私この音源で初めて聞く。レーベルからのメールで興味を持ち購入。「星に間違えられる飛行機」ということで要するに「夜に飛ぶ飛行機」というバンド名はある種のセンチメンタリズムを温度のない名詞で表現するスタイルでとてもかっこいい。生と死が渾然となったアートワークも結構異色なのでは。
Googleで検索してみると日本語のページがあまりヒットしないのでややマイナーなのかもしれない。Diskunionでははっきり「激情」というワードで紹介されている。
激情というと言葉通りにほとばしる感情を攻撃的で(時に複雑な)演奏と叫び(時に会えてのつぶやき)に乗せて打ち出す温度と湿度の高い音楽というイメージがあるし、実際この間激情とは?という動機で聞いたEbullition Recordsの3枚のアルバムは確かに前述のような言葉である程度起き萎える音楽性だったが、このバンドはちょっとその定義と違ってきている。いわば激情ハードコアのオルタナティブ(もう一つの)可能性なのかもしれない。まずボーカルが叫ばない。別に叫べば激情でハードコアというわけではないが、この手のジャンルにしては一見あまり熱量がない。気取ったり、声を過剰に作っているわけでも、すかしているわけではない。ただこういうスタイルだというのだと思う。歌声自体はHigh On FireのMatt Pikeに似ている。掠れて、しゃがれている。経年と外的要因(酒やタバコ)によるダメージがむしろ独特の味を出しているタイプ。この声で歌われるとちょっとずるいくらいに説得力が出てくるわけだ。渋みがあるのでなるほど、叫ばない方が良いな〜という気にさせるし、また一方で平時がフラットだから強弱(呟いたり、叫んだり)が曲の中で目立ちやすくなるという特性もある。
演奏自体は明確にハードコアを経由したロックサウンドを鳴らしており、必ずしも技術を前面に押し出さないやり方で曲もシンプルかつ短い。アコースティックギターとピアノを効果的に用いた曲もあるが、基本的にはバンドアンサンブルのみで余計な音は追加しない。素材自体の音が程よく残されたジャギジャギしたギターがコード感溢れるリフを引っ張っていくのだが、たまに入るハードコア的だったり、ソロだったりがメロウなフレーズに富んでいて、一見さっぱりした外見の中には濃厚な旨味がぎっしり的な魅力が詰まっている。演奏とボーカル(が歌うメロディ)が程よいメロディアスで聞けば聞くほど耳に馴染んでくるのも良い。
ある種のタガが外れたような狂騒を含む1曲め「Dimentia Americana」から幕をあけるのだが、実は全編にわたってグルーミィな雰囲気が底流となって作品を貫いている。リリース前に公開された4曲め「Fucking Tenderness」は彼らの魅力がぎゅっと詰まった曲だが、キラキラした演奏とメロディアスさの中に垣間見える後ろを振り返るような切なさは隠しきれない。
無駄を削ぎ落としたコンパクトな楽曲ながらまぎれもない激情を感じ取れる良いアルバム。かっこいい、そして少し切ない、そんなロックが好きな人も是非どうぞ。
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