2016年10月30日日曜日

Kid Spatula/Full Sunken Breaks

イギリスのロンドンはウィンブルドンのテクノアーティストの2ndアルバム。
2000年にPlanet Mu Recordsからリリースされた。
Kid SpatulaはMike Paradinasの変名。ParadinasといえばPlanet Muの総帥。Aphex Twinとのコラボアルバムなんかもリリースしている。私は高校生くらいの時にAphex Twinを入り口にテクノ、ブレイクコア寄りのIDMをちょっと聴き始めたんだけど、当時の2chなんかで入門編の一枚としてParadinasの変名の一つで多分一番有名なのかな?μ-ziqの「Lunatic Harness」が挙げられており、多分タワレコかHMVで買ったことがある。今でも1曲目「Brace Yourself Jason」のイントロを聞くと当時を思い出したりする。いいアルバムだったけど当時Paradinasは掘り下げなかった。(Planet Muのコンピは一枚買ったんだけど。)Kid Spatulaは当時購読していたアフタヌーンに載っていた「孤陋」という読み切りにその名前が出てきたのを覚えている。やはり昔の記憶。
何と無く思い出してふとした気持ちで調べてみたらBandcampで公開されていたので、得たり!とばかりに購入。

「完全水没ブレイク」と名付けられた今作はParadinasらしさに溢れている。ブレイクというのはブレイクビーツ〜ブレイクコアを指しているのだろうか。ほぼほぼ全編にわたり複雑かつて数の多いドラムンベースを一歩進めたビートが曲の根幹を成している。さすがに当時のAphexのドリルンってほどではなくて、そういった意味では変態的ではないのだが、あの時のいわゆるコーンウォール一派の音なのだろうか、結構特徴的な音で構成されている。ノスタルジーを刺激されるのはもちろん、やはりこの手の音は好きなのを再確認できる。
ブレイクコアということでビートがやたら主張してくる。とはいえメロディ性は曲によっては強く前面に押し出されている。Kid Spatula名義とμ-ziqの違いに関していえばそこらへんで、後者は割とセンチメンタルかつ繊細なのにキャッチーなメロディ成分が強めなのに対して、こちらはそれらがやや希薄でよりテクノ的でより実験的だ。曲にも結構幅があってそこらへんも面白い。言い忘れたがこのアルバムは全20曲で再生時間は1時間10分とかなりのボリューム。
一番頻度が多いのは、ブレイクビーツ、もしくはブレイクコアのビートに楽しくもちょっと内省的な(フロアというよりはナードっぽい感じ、そもそも音の数が多いので(フロアで聞けばかっこいいに違いないが)わかりやすいフロア向けの音楽ではないのだが。)メロディが乗る。メロディというよりはフレーズといった方がいいくらいの濃度で、曲によってはその上物が綺麗なピアノだったり、ギュワンぶよんとしたアシッドサウンドだったり、チョップして整形したハーシュノイズ(同じコーンウォール一派のSquarepusherもノイズに関しては思い入れがあるみたいで複数の音源で色々な使い方をしていたはず)だったりで、おもちゃ箱を引っ繰り返したような多彩さと楽しさがある。ブレイクを基調とした音実験室といった趣すらあるなという感じ。「水没した」という形容詞は面白くてまたしっくりくる。くぐもったようなフィルター(歪みだったり、空間的だったり、アシッドだったり)を通した音は確かに水没と例えても良いかもしれない。(ひょっとしてSunkenには全然違った意味やスラング的な意図があるのかもだけど。)ちょっと”捻くれている”という感じでやはり界隈の音といった感じ。ジャズっぽさだったり、生音らしさはあまり感じられず、やや憂いのあるメロディという意味ではSquarepsuherよりはAphex Twinに似ているところがあるが、こちらの方が音の種類的にとっつきやすいというか、ビートは別として上に乗る音はどれも丸みを帯びた角のないものなので、可愛いという形容詞がくっついてもいいし、耳に心地よい。(ハーシュノイズも使うんだけどそれは別として。)全体的にゆったりとしたドリーミィな雰囲気が漂っており、同じ一派でもそれぞれ際立った個性を発揮して共通項を持ちつつもかなり異なった音楽を作っていたのだな、と妙に感心してしまった。

Apex Twinも最近元気だし、そこら辺気になるな〜という人は是非どうぞ。

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