2016年に自身のレーベル十三月の甲虫(じゅうさんがつのむし)からリリースされた。
バンド名はローマ字でGEZANで表記されるようになっている。
私はこのバンドの前作「凸」を持っていて、これはこういうバンドだ!と中々とらえる事が出来ていない感じはあったんだけど曲は好きで結構聴いていたので今作もなんとなーく買ってみた。
どうも7年在籍したドラマーのシャーク安江さんが脱退するようだ、ふーんくらいの気持ちだった。
全体的に青で統一されたアートワークが印象的。なんとなく聴いてみたんだけどこれがすごかった。始めは正直むむ?あんまり、と思ってしまった。ところが変だなと思って2回、遅くても3回聴いたらこのアルバムのすごさにあっという間に取り込まれてしまった。前作も良かったけど「凸」よりこちらの方が好きだと思う。
なんでむむ?と思ったかというと、たった一作しか聴いてない身分であれだが、何となくGEZANというのは勢いに任せた若く青臭いバンドでブラックメタルバンドもはだしで逃げ出す様なノイジーなトレモロリフが前面に出た、とにかく元気のよい音楽を演奏しているバンドというイメージだったんだけど、今作は結構作風が違う。まず五月蝿さという意味では明らかに減退している。曲の速度もそうだろう、速度は遅くなっている。その代わりに非常にメロディラインが前に出てくる。要するにバックの演奏が大人しくなり、歌が強調されているため、(五月蝿ければ良い音楽だろ?という)私的にはあらら?と思ったわけ。良いところ全部消えている?勿論そんな事はなかった。彼らを象徴するノイジーなギターは曲の色んな部分で生きている。音量は下がって使用頻度も落ちたがその分圧倒的に単発での効果は上がっている。いわば武器の種類が一つで使い方も単一的だった前作から、その使い方に圧倒的にバリエーションが増えたし、武器自体も増えているイメージ。思い出してほしいのだが、「八月のメフィスと」も顕著にそうだったが、元々メロディに関しては非常に重視しそれに富んでいた訳だから、今作でギターが一歩下がった事でそれが目立ちだしたのはいわば当然なのだ。彼らは立ち位置を調整した訳であって、決して日和ってその方向性を変えた訳ではない。このアルバムはシャーク安江さんが抜けると決めた後に作られたらしい。そういった意味では非常に切実なアルバムなのだが、シリアスさはあるものの非常に前向きになってキラキラしているから、なんだかすごい。前向きに言う方が大概後ろ向き名ことを言うより難しいから、そんな重みを感じる。
前作であったラップみたいな、ニューメタルっぽいようなユーモアを取り込んだ派手な曲、ちょっと生意気で煽る様な歌詞はもう見られなかった。(歌詞に関しては攻撃的でなくなったという意味では勿論ない。相変わらず挑戦的、そう挑戦的だ。)それは青臭かった奴らが丸くなったという意味で大人になった、という訳では全然ない。むしろピュアにそして素直になったんだと思う。歌詞を見てほしいんだけど、煙に巻く様な難解さは無くなり、曲によってはもう完全にラブソングだが、やはり独特の言葉で選ばれたそれらはむしろしっくり心に刺さってくる。
聴いている音楽の種類もあってあんまり歌詞カードを見るという事も最近はなかったんだけど、この音源は曲を聴きながら歌詞カードを見るのが楽しい。
私は一個反省があって前作の感想に「彼らは青春パンクの変形なのか?」という様な事を書いたのだけど、結局見た目というか第一印象(「思い出はただの死体」と言い切るその過激さをただ若さで片付けてしまった)でしか判断できなかった。彼らは青い青い青春をテーマにしている。その青春というのは若い人だけのものなのか?彼らは今ドラマーを募集していて、募集要項にはこう書いてある。
「別に年齢の話じゃない。15歳でも35歳でもいい。YOUTHはそんなものでは測れない。音楽が好きで、ただ何かをかえたいそういうヤツに会えたらいい。」
違うだろ、彼らの言う青春は年齢的に若いってことじゃない。それはつまり好きな事を全力でやるってことで、負けないってことだし、きっともっと他の何かだ。私は社会人をやっているけど好きな事を全力でやるって無責任にただ楽しいだけのものだとさすがに思わないよ。
ドラマーが脱退した彼らは今活動を休止している。早くドラマーが入って、そして音楽を作ってほしいと思う。それは一体どんな風になっているか今から気になってしまうのは、ちょっと気がはやすぎか。しばらくはこのアルバムを聴けばよい。
という訳で非常にかっこ良い。なんというか物語があってそれにこちらが浮かされてしまうところがある。”青春”や”Youth”という言葉にちょっと素直に慣れない人でも是非どうぞ。
0 件のコメント:
コメントを投稿