イギリスの作家によるSF小説。
原題は「The City and The Stars」で1956年に発表された。私が買ったのは2009年に装丁を変更した新訳版。オシャレっぽい表紙に惹かれて購入。題名のフォントがかっこいいんだよね。
遠い未来人類はついに銀河に進出し、その栄華を極めた。しかし謎の「侵略者」が出現し、人類はその版図を大きく縮めることになった。全土がほぼ砂漠と化した古い故郷地球に閉じこもり、広い宇宙から退くことで「侵略者」から安全をあがなったのだった。地球上唯一の完全都市ダイアスパー。無限の生を獲得した人類はその楽園で疑問を持つことなく暮らしていた。ダイアスパーの住人アルヴィンはそんな楽園に疑問を持ち、尽きることのない好奇心で都市外の世界に興味を持つがダイアスパーではその思想は異端だった。
一度栄華を極めた世界が何らかの理由で荒廃し、いわば対抗した二巡目の世界で持って原始的な生活がいとなまれている、というのはSFでは結構ありきたりの設定で、この手の物語ではたまに登場するいわゆるロストテクノロジーが荒涼とした世界に彩りを与えるのが醍醐味。私もその手の話は大好きで、この「都市と星」もそう言ったカテゴリーに入れることもできるだろうが、侵略者に脅かされて自分の意思で持って引き持ってしまった、というのは面白い。またダイアスパーに限っては終末戦争を経ているわけではないので、生活水準は現在より高く、人は1000年の生を持ちまた生まれ変わることができるので実質の不老不死が確立されている。仕事もする必要ないし、食べ物に困ることもない。犯罪も起きない。まさに楽園な訳。別に宇宙に出る必要なんかない。だった暖かい家と食べ物がある。刺激に乏しいがまあまあ楽しいこともあるし。外は砂漠しかない。こんな人造のユートピアで異端者となるのが主人公で、「一体都市の外には何があるのだろう?砂漠しかないというが本当なのかな?」という小さい好奇心から、謎に満ちた「侵略者」の正体と人類が退行に追いやられた歴史の真実を探していくいわば冒険譚であって、知的好奇心をくすぐるセンス・オブ・ワンダーに満ち満ちている。「この先には何があるのだろう?」という探究心を持って読者は主人公と一緒に完全だがどこか不自然で小さい世界から、広い広いそして無限に大きい世界に乗り出していくことになる。クラークといえばやはり「幼年期の終り」が一個の里程標的な作品であり、あちらも争いごとの絶えない地球に神のような存在であるオーバーロードが舞い降り、迷える人類を良き方向、つまりユートピアに導くという物語だった。こちらは築かれたユートピアのその後が「幼年期の終り」とはだいぶ違うように書かれている。幼年期のユートピアはその後のための一つの段階であったが、こちらではどん詰まりでこの後の成長がない。いわば死んだ世界であった。実は幽霊の歩く死都である。安逸な停滞で、死ぬのは怖いから生きているのだ。これを邪悪と言い切るのは難しいかもしれないし、ある種の成長仕切った文明の一つの到達点といっても良いかもしれない。そんな老境にある世界を若い感性が思い込みで持って変えていく、というのは非常に痛快だ。
都市の外には何が待ち受けているのかというのは実際に読んでもらうことにして、個人的には色々なギミック含めて大変楽しめた。ただ不満もあって主人公アルヴィンがちょっと完璧すぎる。ほぼほぼ無敵な存在であって、あまり迷うこともない。一応傲慢だった彼が旅を通して成長していく様も描かれているのだけど、その過程があまりに唐突すぎるので何だか読み手としてはいまいち納得感がない。正直因果に基づいた世界を無邪気に肯定するお年頃ではないのだが、どうしてもフィクションにはその手のわかりやすさを求めてしまうのかもしれない。チャレンジには失敗がつきものなのでもっとそこを書いて欲しかった。アルヴィンも育った環境でしょうがないのかもしれないが、傲慢な性格なので一つこいつの鼻っ柱を追ってくれ!という私怨めいた感情があったのかもしれぬ。若い主人公が(無敵の力で)活躍する、というとライトノベルが思い浮かんだけど私は実際ほぼこのジャンルは知らないので比較のしようがないのだが、だいぶ前に読んだパオロ・バチガルピの「シップ・ブレイカー」にちょっと似ているかな?あれは確かヤングアダルト小説だったはず。ハードな世界観に関しては「都市と星」に軍配が上がるが、人物描写は「シップ・ブレイカー」の方が好きだ。
不満はあるものの知的好奇心をばちばち刺激する圧倒的なSF世界観には非常に魅せられた。SF好きの人は是非どうぞ。
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