アメリカの女性作家による短編集。
ル・グィンといえば何と言っても「ゲド戦記」が有名かと思う。ジブリの手でもってアニメ映画化もされたし。私は中学生のとき長期休暇の課題図書になって読んだものです。その後大人になって第2作「こわれた腕輪」を読んだけどこれも面白かった。ゲド戦記シリーズは真の名前が絶対的な力を持つ世界「アースシー」を舞台にした硬派なファンタジーだけど、作者のル・グィンはSF作家でもあり、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞も受賞している実力者。私は有名な「闇の左手」を読んだ。これは両性具有の人たちの星で男性の大使が運命に翻弄されるという、硬派なSFであった。
といっても三冊しか読んでないからこの「風の十二方位」というタイトルがかっこ良い短編集を手に取った訳だ。ちなみにこのタイトルはA・E・ハウスマンという人の詩からとったもので、原典の抜粋が冒頭に書かれている。やはりとてもかっこいいぜ。作者自身がまえがきで書いているのだが、作家デビューしてからの10年で発表した短編をほぼ時系列順に並べたのがこの短編集。
収録されている物語はSF/ファンタジーにはっきりよっているものもある。例えば時空を超える魔法もでてくれば、科学が生み出した先進的なクローン人間たちも出てくるし、舞台は未来、現代、中世(風)と様々。ただ結構両者が混ざり合っているものが多い印象でそこら辺がおもしろい。一見登場人物の語り口を見ると魔法っぽいのだが、栄華を極めた未来文明が崩壊後の残留物では?と思わせたり。
思うに作者には書きたいテーマがあって(これを読み手が、というか私が完全に理解できているか怪しいのが悲しいところだ)、それを書くために舞台装置となる未来的な技術だったり、魔法だったりをかき分けているように思えた。(ただ作者も書いているけど思索的であることを良い事だと考えているから科学技術に対する愛情の様なものがあるなとも感じた。)
概ね思索的で「闇の左手」を思わせる様な灰色い荒涼としたイメージの小説群が多い。人間の感情を書いているが、答えの無い暗黒に沈み込む様な内省的なベールを帯びていて、暗いといえば暗いのだが、表紙になっている(良い表紙だよね、調べたら前は違ったものだったようだ)「セリムの首飾り」「地底の星」のように暗闇で豊かに輝く色彩があってそれが目を引く。ただ輝きが降伏を象徴している訳ではないからどれもただ楽しいという小説は無い。
例えば「オメラスから歩み去る人々」はテーマははっきりしているけど、そこから読んだ人が何を読み取るのかというのは結構面白いのではと思った。因果関係を求めがちな人間の思考形態の一種病的な発露とも見れるなと思った。どれも読んで面白かったというよりは、その後からこっちで考える時間が始まる様な感じで、そういった意味では突き放した感もあれば、ヘヴィな小説群であった。ただ基本的に拡張、変容しているものの普遍的な感情を出発点に(もしくは中心に)書かれているから読みにくいという感じは全くなかった。
ル・グィンはフェミニズムの作家と言われる事も多いらしいけど、無知な私はそこら辺をあまり意識せずに読み物として楽しめた。奥付を見ると初版が1980年で私が持っているのは第16版だったから本邦でも長く人を引き続けている短編集なのだと思う。興味がある人はぜひどうぞ。私は作者の別の本も読んでみるつもり。
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