2018年12月8日土曜日

ヘレディタリー/継承

タイトルも作者も忘れたがこんなホラー小説があった。
とある家では怪異が頻発するが原因がわからない。家をよくよく調べると実は小さな隠し部屋があってそこには様々な呪具が置かれているというもの。多分クトゥルーものでは無いだろうか。アンソロジーにも収録されていたような気がする。隠し部屋というのもいいし、その中に安置されていた用途不明の呪物に個人的には惹かれたのだった。

この映画を見てその短編を思い出した。
この映画の舞台になるのは人里離れた家で妙に薄暗く、ツリーハウスも備えている。この家の秘密の小部屋が死んだババアだった。魔法陣や悪魔のシンボルなどそれらしい呪具も出てきてテンション上がる。じっとり陰湿系ホラーでそれが何かというと陥穽である。これ教団側の視点で作ったら、主人公一家が面白いくらいに罠にうまくはまっていく様が見れて面白いだろうな。内側から見ているとわからないので「随所にちりばめられた伏線が」ということになる。ホラーにも流儀があってフリークス系ならそれらには絶対弱点がないといけない。一方こういう系ならまどろっこしい手順が必要になるのだ。魔法には詠唱が必要なのだ。呪いにも一定のやり方というものがあって、例えば日本のトラディショナルなスタイルを踏襲するなら白装束に身を包み、頭には鼎をかぶってそれに蝋燭を刺し、神社の樹に藁人形を五寸釘で夜中の2時3時くらいに打ち付けないといけない。悪魔の手を借りるにしても万能では具合がよろしくない。そういった意味でこの映画は丁寧に丁寧に呪いを縦糸横糸で織り上げていく。恐怖のタペストリーつまり彼らの満願が成就するというわけだ。うまいもので例えば落ちる首のモチーフなどは何回も強調することで視覚的な恐怖と呪いの進行を同時に表現している。

クトゥルーといえば憑依だ。永遠の命を仮初めの人体で実現する場合は憑依が効率的な手段だ。やはり名前は忘れたがラブクラフトによる憑依ものがあって、たしか受け継いだ地所に墓がついており、愚かにも主人公は前任の死んだ魔法使いの決めた手順を実行し、結果その体を乗っ取られてしまう。この映画もその類かと思いきや、また別の方向に進んでいく。機能不全家族をして家族の絆は呪いだという表現をすることが多いが、本作はそこをクソ真面目に文字通り再現している。血の繋がりというのがババアの呪いでは重要なファクターである。母親が発狂した日本の作家芥川龍之介は常に自身にそれが起こることを恐れていたというが、今作でもその要素が巧みに配置されている。よろしくないことばかり起きている家に結局父親も息子も帰ってきてしまうあたり、血縁を含まない家族というものもなかなか強い絆を強制すると思った。

カルトたちも顕現する偉大な悪魔に何を願うかと思えば以外に卑近で呆れるが妙に世界の破滅を願うよりは共感できる。いわば邪悪なドラゴンボール集めのような趣で巻き込まれれる主人公たちは良い迷惑だが、身勝手で破滅していく彼らの様を眺めるのはなかなか背徳的な感覚になれる。

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