フランスはマイエンヌ県ラヴァルのハードコアバンドの2ndアルバム。
2018年にDeathwish Inc.からリリースされた。
2009年に結成された3人組のバンドで来日経験もある。前作リリース後にメンバーが一人変わっている。
バンド名は「列になって飛ぶ鳥」という意味かな?秋か冬を連想して切ない気持ちになる。フランスでもそうなのだろうか?
Birds in Rowを聴いて思ったのは、とにかく全編メロディアスだ。曲の中心には歌があると言って良いのではないか。シンプルなのはバンド編成にとどまらず、作り出す音に関しても非常にシンプルだ。セミホロウのギターから生み出される音は攻撃的だが重たくはない。尖っていてソリッドだが、アンサンブル全体ではヌケが良く、音と音の隙間が強烈に意識されている。先行公開されていた「15-38」はその極みと言える曲で生々しいギターと声が明るいメロディを紡ぎ上げていく前半部がとても美しい。
私などはどうしても耳を引くポップさに捕まってしまってこりゃあ非常にメロディアスな作品だな、なんて思ってしまったがアルバム全体を何巡かしてみるとその印象もだいぶ変わってくる。まず非常にラウドであることに気がつく。そして非常に攻撃的であることに気がつく。これはおかしい。なぜなら音自体(音の作り方と曲の構成)は前述の通りにどちらかというと意図的に軽くしたものだからだ。しかしこの全編を覆ったシリアスさはどうだろうか。このタイトさは非常に重たく聴く人の耳を通してのしかかってくる。いわゆる「重たい女(もしくは男)」のように情念が強い。これはそう緊張感だ。ある意味抑揚はあっても緩急はないんだよ、このアルバムは。全編ピリっピリに張り詰めている。だからこその34分なのだ。キリキリに張り詰めた弦のようにこれ以上やったら弾け飛んでしまう。テンションが高いというのはやたらに元気という意味ではない。エネルギーが横溢していてこれ以上はもう…という緊張感に他ならない。このタイトな感じはkillieの編集盤を聞いた時の思いと非常に似通っている。これに気がついた時これか!と個人的には納得感があった。別に他のバンドが弛緩しているわけでも遊びでやっているわけでもないが、しかしこの緊張感といったらない。音の軽さについてもこれで説明はつく。彼らは、Birds in Rowは生身で勝負する。最低限の楽器(とそれを動かす3人の体)と声で勝負をする。他には何も付け足さない。この厳格さがこの濃密さを生み出しているに違いないと思う。溜まりに溜まったエネルギーをある意味ではこういう形で放射するという所に非常に人間的な懊悩を感じるし、それが激情ハードコアなのかと思った。
「We Vs. Us」の歌パートの緊張感、そして何と言ってもアルバムのラスト「Fossils」の冒頭の重たさが開けた後に浮かび上がってくるメロディが素晴らしい。私はどうしても鬱屈して放心したような、諦念のある空虚感のある曲が好きなのだけど、このアルバムには懊悩はあっても諦めは一切ない(ように思う)。全編これ闘争だ。諦めと戦っているのだ。「俺たちはすでに世界を失っている」というアルバムのタイトルは非常の特徴的で危うい。その勝ち目のない戦いが、勝ち目のないゆえに非常に眩しいのだ。負けないでくれと思ってしまう。感動的だ。
これはすごいアルバムだ。一見してどうしてもポップさに惹かれてしまうが、その背後にとんでもないものが渦巻いている。非常にオススメ。
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