2018年8月11日土曜日

nine inch nails/Bad Witch

アメリカ合衆国のインダストリアル・ロックバンドの9枚目のアルバム。
2018年にThe Null Corporationz/Capital Recordsからリリースされた。
「Not the Actual Events」(2016)、「Add Violence」(2017)に続く三部作のラスト。いつの間にかアルバム扱いになっていた。公式では何故かメッセンジャーバッグが付いたセットが販売されていて、謎の黒い粉なら雰囲気あるけど、自転車とninには全く関連性が感じられず流石にこれは正直誰が買うんだと思った。ちなみに私は買った。(信者だから。メッセンジャーバッグは最高にカッコ良かった。)

今回も相棒はAtticus Ross。近年の数々の映画(余談だけど全く予備知識なく「パトリオット・デイ」という映画を見て音楽がninっぽいなと思ったら果たしてTrentの手によるものだった。)のサウンドトラックも彼とタッグを組んでいる。波長が合うのかな?基本的には二人で作ったのだろう。全部で6曲で30分ちょっと。長さ的にはアルバムでもEPでもいけるけど、そこは音楽の聴き方に非常に敏感な(ネットで売ったり、投げ銭で売ったり、自身が海賊サイトを愛用したりと色々自分でもやっている人)Trentのことなので、CDという過去のフォーマットへの拘りを捨てて、今の音楽の聞かれかたを意識したのだろう。昔は良かったというでもなく、今におもねる訳でもなく、聞き手を意識して出し方を変えていくのは個人的には良いと思う。(ドゥームメタルなど特定のジャンルを除けば)音楽の良し悪しは音源の尺の長さに依存しないはず。もっと聴きたいな、という要望にはそれこそEPで対応してきた訳だし。
復帰作「Hesitation Marks」からの延長線上、つまりミニマルかつ音のレベルの小さいビートをかっちり作っていき、その上に歌を乗せるタイプ。歌とビートどちらが先行しているのかはわからないが、バンドサウンドの使用量の減退もあってか今風の音にアップデートされていると個人的には思っている。ただ中身の歌は昔からずっと変わってない。流石に「Downward Spiral」の頃のような自己破壊志向の耽美さはもはや霧散しているが。(かといってTrentの肉体改造と合わせてninが健全になったとは思わない。全アルバムのタイトルも「ためらい傷」だとか。)いわば表現方法が変遷しているのだ、ninは。
色々調べてみると「以前の作品のように攻撃性を取り戻し」たと評されていることが多いようだ。昨年から会社の上司の強い勧めでデヴィッド・リンチとマーク・フロストの「ツイン・ピークス」にハマった。最新作「The Retuen」ではninが作中で「She's Gone Away」を披露した。前述のEP収録の曲だが、これはこの作品のために書き下ろしたのだという。なんとなく昨今のninというとこの曲のイメージがあったけど、暗くて非常にノイジーだった二つのEPと比べると確かに趣が異なる。流石にEPつながりでバリバリバンドサウンドだった「Broken」とは流石に全然似ていない。(調べたら26年前だ。とはいえ曲をコンパクトにまとめるというのはずっと共通している。)1曲め「Shit Mirror」続く「Ahed of Ourselves」を聞くと確かに攻撃的だなと思う。前者はなんとなく「Hands That Feeds」を連想した。音の使い方とポップさに共通性を見出したのだ。でも3曲め以降はこのアルバムのリメイク(一度既存の曲を全部ボツにして作り直したそうだ)のきっかけになったTrentによるサックス(何気なく吹いたらおもしろくてアイディアが湧いてきたらしい)が入ってきたりして、単純に攻撃的というのではない気もする。割と実験的なアプローチをしていた前作の経験を振り返って見て、ninの基本に立ち返って彼ら流の歌に再構築した、というのが私の印象。この作品をEPではなくてアルバムというフォーマットにしたのもそこらへんが理由なのかなと思う。
嬉しいのはインストが2曲収録されていること。私は「The Fragile」至上主義者なのだが、何と言ってもあのアルバムはインストも格好良い。このアルバムのインストも不穏のベールの向こう側で色々な楽器が唸りを上げていて、あの頃を彷彿とさせる。胸が熱くなる。
先日Croosbeatからninのムック本が出版され、まだ全部読めていないのだけど面白かったのは、Trentはバンドをスタートさせる時から人に聞かせることを意識していたこと。なんとなくマニアックなイメージがあるのだけど実際世界で売れてもいるわけで、そういった意味では今作の”らしさ”、つまり使っている音はアップデートしつつ(ムック本を見るとTrentの外見の変遷も面白い)も、核となる曲というか歌はずっとぶれていないところ、も非常に納得感がある。

0 件のコメント:

コメントを投稿