アメリカ合衆国の作家の長編小説。原題は「The Last Policeman」で邦題とはちょっと趣が異なる。2012年に発表された。
タイトルにインパクトがあるが決して誇張という訳ではなく、巨大な小惑星が地球に衝突することが確定しており、ほぼほぼその衝撃でほとんどの人類が生き残れないだろう、という世界での物語。作中にも出ているがネヴィル・シュートの「渚にて」に滅亡を前にした世界、という点で共通している。ただし要因が明確に違うのと、こちらはまだ破滅まで時間がある。このまだ時間があるというのがなんといってもこの作品のミソだと思う。自暴自棄になって破滅するにはまだちょっとだけ時間がある。1週間後に滅びる、ではないのだ。考える時間がどうしてもまだ残されている。そこで人々は残りの時間をどうするかという問題に直面せざるを得ない。当然働いても意味がない、というかどうせすぐ死ぬのだから好きなことをやりたい、ということになり多くの人は仕事を辞め、そのため都市のインフラをはじめ色々な機能がうまく働かなくなっている。インターネットは一部でしか使えないし、ガソリンが市場からほぼ姿をけして自動車がほぼ走っていない。携帯電話も基地局が散発的に稼働しなくなっているためかなり繋がりにくい。考えてほしい。だって死ぬのだから、働いたってしようがないだろう。地球滅亡のお知らせだ。まだ最終的な混乱には陥っていない世界で、主人公は刑事として働いている。警察官も人間なので退職者が多く、警察署は機能不全に陥りかけている。
この作品をしてでも人間はいつか死ぬのだから、実質地球の滅亡が宣告されても生活は変わらない、と言うのはちょっと無理がある。人間は多分(自分だけかもしれないが)自分が本当に死ぬ寸前までなんとなく、しかしかなり強固に自分は死なないと思っているので、明確な死の宣告はどうしたって人に影響を与えるだろう。そういった意味ではやらなくても良い仕事をやると言う意味で、同僚にすら揶揄される主人公は気高い人間だと言える。この小説の筆致はあえて淡々としたものだが、オフビートな文体の中にもちろん人間としての尊厳も感じられるが、他にすることがない、どうしようもない、言い方は悪いが死ぬまでの暇つぶしをやっているようなヤケクソ感もある。((主人公の部屋が異常に殺風景だったりして、そこらへんが示唆されている。)麻薬やアルコール逃げるもの。銃器を集めるもの。店舗や人を襲うもの。爆発的なエネルギーはしかし長続きするのが難しい。カタストロフィにまだもう少し時間がある世界で、寄る辺ない人間の本性がむき出しにされているようで、なんとも虚しい趣がある小説だ。そこが良い。ある意味この上なく巨大なショックによる放心と、もはや拭い去ることのできない諦めがただ息をしていると言う状態から無理やりよろめき歩いているようだ。なんていったって未来がないのだ。どこにたどり着いていくのでもない。真っ赤に燃える世界の終末!!その手前の静かに機能不全に陥っていく世界、と言うのがよかった。みんながダメージを受けてそれが、静かさの薄皮一枚裏側でともするとちらっと見えるような。
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