2017年12月24日日曜日

Bell Witch/Mirror Reaper

アメリカ合衆国ワシントン州シアトルのドゥーム・メタルバンドの3rdアルバム。
2017年にProfound Lore Recordsからリリースされた。
2010年にドラムとベース兼ボーカルの二人組で結成されたバンド。バンド名は実際にアメリカで起こった幽霊屋敷事件に基づく。(wikiなんかを読むと非常に面白い事件であるようだ。)なんとなく1st「Longing」の頃から聴いている。2016年にオリジナルメンバーであるドラマーのAdrian Guerraが逝去。もうバンドとしては終わりになってしまうのかと思っていたのだが、新しくドラムのメンバーを迎え入れて発表した新作。嬉しくてLP盤を購入。アートワークはベクシンスキーっぽい。

もともと長尺の曲を演奏するドゥーム・メタルバンドだったが、1stが6曲、2ndで4曲、ついにこの3rdで1曲83分という次元に突入。この情報で当惑するのではなくテンション上がるのは変な人だと思う。一応LPだと「As」、「Above」、「So」、「Below」と片面ずつ別れているようだが…。
1曲にしたのはもちろん長い曲をやるために他ならない。元々長い曲をドローンの要素を入れつつプレイしていたが、それでも結構明確にパートが分かれているのがこのバンドの特徴だった。今回ではそれぞれのパートを本当に贅沢に使っており、83分という長さを活かした”1曲”をプレイしている。ベースと言っても6弦あるものを使っているようで、ダウンチューニングしてエフェクトを掛けたギターと正直あまり違いがわからないのだが(バンドやっている人ならやはり明確にわかるのだろうか)、それをズアーーーっともったり引き伸ばすような弾き方をしており、とにかく全体的にめちゃくちゃ引き伸ばされた残響を楽しむためのバンドである。それ故フューネラル・ドゥームの要素もあるのだが、わかりやすくブラックメタルを彷彿とさせる要素はあまりない。邪悪さも黒さもあるが、それこそ幽霊のように”曖昧”であることがこのバンドの一番の魅力だ。
khanateを通過してのSunn O)))に通じるところがある(世界観や雰囲気も)が、しかしあちらが邪悪な神話だとするとこちらはロアというかやはり幽霊譚というのがしっくり来る。もっとしっとり、いやじっとりと湿っていて、そして地味であまり知られていない感じ。この湿度というのはつまり叙情的であることだ。この手のジャンルでは敬遠されがちな感情豊かな表現をBell Witchは積極的に自分のフィールドとしている。とにかく重たく遅々として進まない演奏と地を這うような低音ボーカルを主体にしながらも、はクリーンボーカルが歌うメロディそして、感情的なメロディ性のあるベースライン。とくにリフはもはやフレーズと化していて、このバンドならではの曲の長さを存分に活かして贅沢に長く、そして繰り返されていく様はまさに桃源郷。よくよく計算されていて音はでかいが、フィードバックノイズは制限されており、体の表皮を震わし、その後体内に浸透していくような柔らかさがある。いわばうるさくないノイズだ。ひたすら暗く、潜行していくように下に潜っていくが、どんな幽霊もその重さのない身(心)中に物語を隠しているように、聞けば聞くほどにその豊かさにハッとする。
そしてやっぱりクリーンボーカルが映えること。今回もたまらなく良い。うっすらあるメロディラインを良い感じに魂の抜けた声がふわーっと通り過ぎていく。うっすら滲む諦念が背後に渦巻く低音にのってじわじわしみてくる。アメリカのバンドだが、この彼らの「幽霊感」に和風な、恐ろしくも儚く、そして地上には特定の条件下でしかとどまっていないような存在の薄さ、軽さを感じてしまう。非常にヘヴィな音楽なので我ながら妙な感想だとは思うのだが。

曲の長さもあってとっつきやすい音楽ではないが、この手の音楽が好きな人は是非どうぞ。私はやはり非常に好きだ。スラッジ方面に舵を取るでもなく、この物語性に飛んだ幽玄さに感じを取るというのはメタル的だが、どれもやはりソリッドでこういう浮遊感のあるバンドというのは他に知らない。じっとりとした湿度は日本人にはしっくり来ると思うのでぜひ聴いてみて頂きたい。きっと予想より聞きやすいはず!おすすめです。

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