アメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストンのハードコアバンドの3rdアルバム。
2017年にSouthern Lord Recordingsからリリースされた。
ConvergeのドラマーBen Kollerが在籍していることで有名なバンド。他にはBloodhorseやThe Hope Conspiracyといった同じボストンのバンドのメンバーが名を連ねている。
スーパーグループってことになるのかもしれないけどコンスタントに活動しているようではや三枚目。私はこのアルバムで初めて聴く。
タイトルは「人質動物」だろうか。10曲をほぼ35分で突っ走るハードコアのアルバムなのだが、ハードコアというフォーマットでよくもここまで…という圧倒的な表現力を存分に発揮しているアルバムになっている。
シンプルかつソリッドなハードコアが他ジャンルからの要素を取り込みつつ、新しい表現力を獲得してきて久しい。わかりやすいのは明快なメロディの導入、ひたすら速さの中にピュア度を上げることに心血を注ぐファストコアや激烈な速さとそしてベクトルの真逆の遅さを取り入れたパワーバイオレンスなどなど。音的にも特に同じうるさい音楽というくくりで特にメタルからの影響は強くて、スラッシュメタル、ポストロック、昨今ではブラックメタルなどのサブジャンルを解体し、刻みまくるリフ、アルペジオや複雑な展開、トレモロリフなどに分解したパートをハードコアという骨組みに再構築する作業。まさにクロスオーバーな異ジャンル感の異種交配が、ハードコア(に限らないが)というジャンルを豊かにしていった。当たり前だが別の手法を持ち込めばしかし、元々のハードコアの濃度というのはどうしても薄まってしまう。今では音だけ聞いたら初期衝動あふれるハードコア・パンクから遠くはなれてしまったバンドなどは枚挙に暇がない。(念のため言っておくどちらが良い悪いのはなしではない。)
前置きが長くなってしまったが、どうしても表現力を豊かにしようとするとハードコアというフォーマットだとその濃度が薄まってしまうということが言いたく、その点からするとこの「Hostage Animal」というアルバムはどこまで言ってもシンプルかつソリッドで攻撃的なハードコアでい続けながら、その表現力の豊かさには目をみはるものがあると言いたい。ジャンルの限界に挑戦した、などというのは非常に陳腐な表現だが、このアルバムに関してはそう言いきってもよいのではと個人的に思っている。別に目新しいことを、奇をてらったことをやっているわけではない。しかしそれ故更に驚異的である。基本に忠実ながらここまで感情の振れ幅のあるアルバムはそうない。感情の表現といえばエモ、エモバイオレンス、激情などのサブジャンルが思い浮かぶが、それらのジャンルがそれなりの舞台装置を曲の中で作り上げるのに対して、APMDはあくまでもハードコアだ。余計な部分がほぼない。冗長にもなってしまうアルペジオや、悩みすぎて捻くれた複雑なリフと展開、ことさら残虐性を強調する(ともするとメタル的な)スラッジ展開、もちろんわかりやすいメロディなんかもない。だがそれらで表現しようとする、”アグレッション以外の何か”がたしかに存在する。一つにはリフというかフレーズの引き出しが半端なく、短いフレーズにも心を打つ響きが隠されていること、それから速度をうまく使っていること(テンポチェンジというのではなくて)があると思うのだが、それだけなら他のバンドもやっているだろう。なんとなく長大な曲を作ってそのコアだけが残るように削ぎ落としてしまったような感じすらある。ボーカルだけとるとどの曲も汚くがなりたてているだけであるのに(もちろん良い意味で。)、なんでこうも曲によって、そして曲の中に感情が詰まっているのか。シンプルに表現すればシンプルな感動が惹起されるというのは明確に間違いであるということを証明している、という意味で非常に優れたハードコアのアルバム。
表現力のために拡張し続けるジャンルを雑に殴りつけるような、バッキバキに引き締まりまくった筋肉質なアルバム。ちょっとこれはすごくて今年はConvergeの新作もあったが、そちらに行けずにここにとどまってしまったくらい。色々こねくり回す必要なんてなかったのか??と呆然とする。実際にハードコアのバンドをやっている人の感想が聞きたいところ。非常におすすめなので是非どうぞ。
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