元は2005年にHypertension Records(良いレーベル名だ)など複数のレーベルからリリースされたもの。私が買ったのはボーナストラック3曲(EPから2曲、ライブトラック1曲)を追加して、さらにこの後リリースされたアルバム「Mass IIII」をセットにしたコンピレーションアルバム「Mass III-II + Mass IIII」というアルバム。こちらも幾つかのレーベルからリリースされたが、私のは日本のTokyo Jupiter Recordsから出ているもの。元は別の作品なので別々に感想を書こうかなと。
Amenraでアメン・ラーだ。たしかエジプトの太陽神の名前だったと思う。結成は1999年で今は5人組のようだ。メンバーチェンジもあったようでオリジナルメンバーは今二人(ボーカルとギター)残っている。もう一人ギター担当のメンバーがいてこの人はOathbreakerのメンバーでもあるそうな。
新作はNeurot Recordingsからリリースされているのだが、それも納得のサウンドを鳴らしている。根っこがハードコアだが病みに病んで速度が遅くなり、展開も複雑かつ大仰になったスラッジ・サウンドを鳴らしている。スラッジと言ってもEyehategod系の退廃的かつ厭世的、薬とアルコールでハイになったスラッジ・コアとは明らかに一線を画す暗い内容でどちらかと言うと、頭にポストとつく感じのインテリジェンスなサウンド。不良というよりは優等生が病んだ的な雰囲気の方のやつです。ポストの次がロック(ではないような印象だけど)、メタル、ハードコアのどれかっていうのがちょっと判然としないのがこのバンドの面白いところ。この手のバンドはDownfall of Gaiaとか、Rorcalとかが思い浮かぶが、曲が長くなるに連れて展開が複雑に、そして劇的(ドラマティック)になってくるものだけど、このバンドは結構その手の方向に進むことを拒否していてあくまでも陰湿なハードコアを徹頭徹尾プレイしている。外へ外へ広がっていかないのだ。また美麗なアルペジオや浮遊感のあるシンセサウンドもなし。あくまでもソリッドかつ重厚でどこか想像の別天地に飛翔することを許さない牢獄感。逃げようとする足首をぐっと掴んでくる陰湿さがある。もともと内省的なジャンルだが音もその精神に忠実で中期(遅くなって以降の)Neurosisの影響を色濃く感じる。結果密室的で閉塞感のあるハードコアが長尺で延々とプレイされるかなりハードな地獄絵図が展開されるのだが、最後の希望が用意されている。それが陰鬱なメロディの大胆な導入。サビのための他のパートという使い方ではなく、長い曲のなかの一部としてクリーンボーカルによるメロディを取り込んでいる。この「歌」というのもなかなかどうしても暗く陰鬱で、少し耽美なところがある。病的な男の現実逃避めいていて、音楽が密室を構築するなら、梁に縄を引っ掛ける時に幼く幸せだったときの同様を口ずさんでいるような嫌〜な感じがする。これが良い。
前述の2つのバンドのようなハードコアから始まり、ブラックメタルも飲み込んだ壮大なポストメタル/スラッジというより、自分的には激情系やエモバイオレンスに自殺感を持ち込んだようなイメージが近い。というのも長い曲でアトモスフェリックな要素をほぼ用いず、バンドサウンドで勝負していること。アート感はなく、ハードコアを貫いていること。歌詞は分からないが、全体的に極めて内省的で自己批判的な精神が感じられること、これは出す音が”個人的”なように私には聞こえる。矮小や卑小と言っても良いかもしれないが、壮大な曲のドラマティックさに胸を打たれるのも良いが、どこまで行っても自分という檻からは逃げ切れないような、そういった日常的な悲痛さが強調されていて個人的には妙に共感してしまう。
ポストメタルが好きな人が聴いてみるのはもちろん良いし、日本や海外の悩み過ぎ系病みハードコアが好きな人も結構好きになるのではないかと思う。
ちなみに年内にこの編集盤が完売すると、発売元のTokyo Jupiter Recordsが来日に向けてバンド側との本格的な交渉に入るとのこと。残り少ない年内だが、気になっている人は買ってみると良いかもしれない。
また、Decayed Sun Recordsの特集記事がとても読み応えがあるのでぜひ読んでみていただきたい。私は自分が書いているのは感想文なのだが、この記事というのは私が考えるレビューの一つの理想形だと思う。
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