東京のディオニソスこと酩酊とノイズの神ENDONが3月8日にニューアルバム「Through The Mirror」をリリース。間髪を入れずに新作のリリースツアーに出る。
それならば行かねばならない。歌詞がないバンドだがアルバムのリリースに合わせて直接的な言葉をかなり赤裸々に表明。そして事前に公開された音楽そのものでももちろん話題を巻き起こしていた。新作は3回くらいしか聞いていない状態(MVも作成された「Your Ghost is Dead」だけは何回も聴いた)だが、期待感も半端なくアースダムへ。
お客の入りはかなり。最終的には少なくともフロアの前の方はぎゅうぎゅうだったのではなかろうか。ENDONはドラム、ギター、ボーカルに加えてノイズのメンバーが2人もいる。彼らが左右に展開。配線が森のようなわからない機材がステージには準備されている。プロジェクターがステージに二つ、フロアからステージに向かって2つ設置されている。ビジュアル面にも気を使っていることがわかる。
まずは行松陽介さんによるDJ。これがノイズはもちろん、ダブ、デスメタル、テクノと、「ウルサイ(ノイジー)」を共通項にする音楽を絶妙につないでいくもので、多彩なジャンルだけど親和性はばっちりだったのではなかろうか。私は全然曲がわからなくて曲目が欲しいなと今でも思っております。アナログのDJセットはやっぱりいい。動きも無駄がないように見えてかっこよかった。(なんでDJの人ってもっとあたふたしないのだろうね)少なくともDJという役割は知っていることが強さになるからうかうかしているとあっという間に追い抜かれてしまうなあなんて思っていた。(流行という線的なものでなくて深みという意味で)
そうこうしているとステージにはスモークがもくもく炊かれている。かなりの量でステージがよく見えない中メンバーが登場。ボーカルの名倉さんはGuns And RosesのT-シャツを着ている。ガンズ!?となっている内にアルバムの冒頭を飾る「Nerve Rain」が始まる。これライブのために書いた曲でなかろうか。繰り返される反復にちょっとづつ断絶が入る。焦らされる。どんどん前に詰めて行きたくなる。2曲目「Your Ghost is Dead」。この曲は前半でリズムを変える場面がある。そこを心待ちにしていたのは私だけではなかっただろう。フロアが爆発するようなテンションを感じる。全てが計算されている。ENDONを見るのは3回目くらいだろうか。初めはとにかく何をやっているのかわからなかった。フリーだった。次見たときはより曲っぽいなと思った。具体的にはグラインドコアに近いかも、そう思った。今回は完全に曲だった。再現度も高い。ノイズというのは再現が難しいものだと思うので、これは何かいうとノイズへの偏重が減退している。つまり楽器の一つにノイズが落とし込まれていて、もちろんそこでは存分にカオスそのものであるかのような暴力性(つまりハーシュノイズという役割)を発揮するのだが、屋台骨となる曲があるので、例えばドラムは決められたリズムを刻み、ギターもリフや旋律を奏でる。制限を作ったのでわかりやすくなった。曲をあまり聞き込んでいなくても聴きどころがかなりわかる。逆にいうと聞き手が喜ぶポイントを刺激する曲を作り込んできている。この知的な戦略を自身の強みである暴力性を損なわずにやってのけるのが今のENDON。不遜だ。傲岸。いわばノイズを飼いならしたバンドなのだろうか。プロジェクターが真っ白い強烈な光をレーザーのように放射する。ボーカルの名倉さんは言葉にならない種々の声、主に絶叫めいた「でかい」声をフロアに向かって投げかけていく。音がでかけりゃいいわけではない。だが言葉のない音がここまで空虚にならないのはただすごい。フロアはめちゃくちゃ盛り上がっていたと思う。暴れる人も多かった。
中盤になるとノイズの自由さが前面に出てくる。アルバムを再現しているから音源でいっても中盤の曲群。ここでは巨大な壁のようなノイズが質量を持ったまるで粘性の水のようにフロアを満たしていく。ブラックメタルを通り抜けたプレイが目立つギターもここでは、音を抑えて爪弾いていくのだがこれが一個の道になっていて、この対比が面白かった。これを命綱にノイズに潜っていけばいいのか。巨大な地獄に垂らされた一本の蜘蛛糸か。あえての対立構造は面白かった。正気でいる方が辛い、そういったメッセージかもしれない。
そして終盤。タイトル曲「Though The Mirror」から「Torch Your House」。劇的だ。ドラスティックだ。音源を聴いていただければわかってもらえると思うが、ここに着て綺麗なENDONが現れてくる。これは本当にちょっとまだわからない。形骸化した”激情””エモーショナル”への強烈な皮肉なのだろうか。しかしこのクオリティはふざけ半分でないことがわかる。雑味しかないのがノイズならそれを使って透明を作り出した。強烈に光を放射する夜明けを作り出した。綺麗なものを汚いと呼ばれるもので作り出した。レーザーのような光が美しかった。明るくされた照明も。
アンコールは過去作から。「じゃあ昔の曲」。名倉さんがマイクを通して発した日本語はこの日これだけだったと思う。暴力的な曲でENDONはその出自を再認識させた。
お客さんは笑顔を浮かべている人が多かったと思う。面白いのはもちろんだが笑うしかない。自分も含めて一体これどうしたらいいんだという笑いもあったのでは。
現状への不満、フラストレーション、その要素を非常に強く感じた。混沌の中から、それを全身に塗れさせて、それを引きずりながらぐわっと出てきた。それを感じた。シーンのことはよくわからないが、このバンドがそれを非常に面白くする、それをかき乱していくとしたらこんなに痛快なことはないと思った。
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