日本人の作家によるファンタジー小説。NHKでアニメ化もされた作品で守り人シリーズの第1作目。知っている人も多いかと。私は正直そこまで興味があった訳ではないが、会社の人にお勧めされたので買ってみた。国際アンデルセン賞という章があるのだが、それの作家賞を作者の上橋さんは受賞されたそうだ。国際アンデルセン賞というのは児童文学が対象だそうな。私は守り人シリーズは名前くらい知っていたが児童文学だったとは知らなんだ。突然変な話で恐縮だが私は子供時代大好きだった絵本を引っ越しのときにすべて捨ててしまったのが一生の後悔している事のうち一つである。当たり前の話だが優れた物語は子供だろうが大人だろうが楽しめる。中学生のときに読んだゲド戦記を大人になってからまた読んだがやっぱり面白かった。だもんで児童文学、全然OK、問題無し。
30歳の女用心棒バルサは短槍の名手。ある時新ヨゴ国を旅しているとやんごと無き方の乗った牛車が橋の上で横転し、乗っていた第2皇子が川に転落。川に飛び込んだバルサは寸でのところで彼を救出。お礼に招かれた王宮で第2皇子チャグムの母親二ノ妃から何かに”憑かれた”チャグムは帝その人に命を狙われていること、彼を連れて逃げてほしい事を告げられる。断れば王家の秘密を知ったバルサは殺される。否応無しにチャグムをつれて逃げたバルサに帝の追っ手がかかる。次第に憑かれたものの影響を受けるチャグム。彼に取り憑いた”モノ”の正体は何なのか…
読んでいて児童文学だと意識した事は本当偽りなく一回もない。勿論読み終えてみてそういえば生々しい大人な描写はなかったな、と思うくらい。むしろ普通の小説となんら変わらなく読めたし、バルサの戦闘シーンは派手な首が飛ぶ、とか胴がまっ二つ、とか無いのにまさに手に汗を握る鬼気迫る描写で、命のやり取りの応酬が一挙手一投足に表現されていて凄まじかった。作者は女性なんだけど戦いの描写は男性に一歩も引けを取らない。戦いというのは勿論バルサなら槍を構えてのきったはったもそうなのだが、もう一人の主人公皇子チャグムも自分に取り憑いたもの、そしてその理不尽さ、宮廷生活から一転山中での逃亡生活と戦っていく。とにかくここの心理描写が巧みで、たとえばチャグムは〜〜と思った、とは書かない。でも不意に爆発する怒りだったり、涙だったり些細な行動にその裏にある心理状態が透けて見えて、押し付けられる訳ではなく滅茶共感できる。ここの書き方がとても丁寧。
チャグムが抱えているものの正体が次第に明らかになっていく中、混戦模様だった物語がとある一点で集中して最後ぎゅっとまとまる。その凄絶な戦いでさえも実は登場人物の意思が一つにまとまっていなくて、最後のチャグムの決断というのがだからこそ猛烈にいきてくる。この作者は女性だからかタイトルもそうだが、「守る」ということに主眼を置いていて二ノ妃もバルサも、帝の追っ手ですら何かを守ろうとして結果戦いが生じているんだけど、最後チャグムが自分の命ですら投げ出すように一歩を踏み出す、それが何なのかというと勇気だったり母性だったり、共感だったりするんだろうけどどれも一言では決して説明でき得ない、ない交ぜになった感情の爆発するようなそのまばゆい閃光。その圧倒的なまぶしさ。そこにこの本の、この物語のポジティブさが結実していると思う。思わず唸る。
児童文学である、ということは文体が明快で読みやすい、ただその一点に凝縮されているようで、文句無しに大人でも楽しめる物語。むしろ大人にこそ読んでほしいくらい。心がぐわっと熱くなる一方読後のさわやかさも素晴らしい。本にしてもちょっと変わったものばかり好んで読むが、この本に関しては普段本を全く読まないという人にもお勧めできる。是非手に取っていただきたいオススメの一冊です。私は2作目も勿論読むつもり!
0 件のコメント:
コメントを投稿