2014年11月16日日曜日

ボストン・テラン/神は銃弾

アメリカのイタリア系アメリカ人作家による暴力小説。
1999年に発表された作者初めての小説とのこと。原題は「God is a Bullet」。

カリフォルニア州クレイで保安官を勤めるボブ・ハイタワーは約束していた娘からの連絡がこないので、再婚した元妻の家を義父と訪問した。そこで見たのは拷問の上殺された元妻とその夫。彼の娘ギャビの姿は見えなかった。遅々として進まない捜査にいら立ちを隠せないボブは独自に捜査を始める。捜査線上に現れたのは元麻薬中毒者で元カルト集団の一員だったケイスという女だった。彼女が言うには彼女がかつて身を置いたカルト集団が虐殺融解に関わっているらしい。ボブは藁にもすがる重いで、周囲の反対を押し切りケイスと娘を取り返す旅に出る。

というなんとも映画向けのようなストーリー。著者はイタリア系アメリカ人でかのブロンクス出身だそうで自身と彼の一族が手に染めている色々な”経験”が反映された生々しい暴力小説である。題材は日本人も大好きな復讐。ボブは娘を取り返し悪人をぶっ飛ばすため。ケイスは自分をとらえ続けるカルト集団との因縁を断ち切るため。砂漠の荒野をかっ飛ばすロードムーヴィ的な側面がある。また立場の違いすぎて相容れなかったボブとケイスがだんだんと心を通わせていく、そんな繊細さも丁寧に書き込まれていて、硬派であると同時にエンターテインメント性に富んだ小説。面白いのは如何にも銃弾が飛び交いそうなタイトルとお膳立てされた状況だが、実際にドンパチが始まるのが550ページくらいある超ど真ん中あたりなのだ。恐らく合えての構成なのだろうが、この本には単にドンパチ以上に文学的な要素がある。それは荒野の、アウトロー達の哲学ともいうべきもので登場人物達はとにかく癖のある詩的な言葉を吐くのである。とくにアウトロー側にいる登場人物達が。これがこの小説をかなり独特なものにしている。
粗さはあるものの物語としてはしっかりしていて、特にアメリカの闇を内包した乾いた砂漠の描写、そこに飛び散る赤黒い血、そして暴力の描写は凄まじい。退屈する事なく読めた。しかし私そこまで物語に入り込めなかったというのが正直なところ。理由は2つあって、一方は前述の詩的な台詞が合わなかった。気の利いた罵倒の応酬なんかは洋画を見ているようで下品で格好いいのだが、さらに一歩進んだ哲学めいた格言はたしかに言葉のチョイスは格好いいのだが、そこが意味するところが浮かんでこなかったのだ。簡単にいうと一見かっこ良さげだが実は何を言っているのか分からなかった。詩情というのは難しいもんで、波長が合えば何となく徴収的な言葉の向こうに風景や意図が見えてくるものだが、合わなければ曖昧模糊とした言葉の羅列にすぎない。どうも私は作者と波長が合わなかったようで、ページをめくる手を止めて大分考えてみたものだが、こういったものは考えれば分かるものでもない。
もう一つは敵役サイラスである。コイツは元男娼で元麻薬中毒者で元警察のカモだったがある時啓示を受けたんだが、悟ったんだがで麻薬を立ちジャンキーら犯罪者集めたカルトを結成し、今は麻薬の密売で利ざやを稼ぐ、人殺しもいとわない悪党である。ケイス評してカオスということでとにかく気の赴くまま何をするか分からないという、いわば危険が服を着て歩いている様な奴なのだが、なんとなくコイツが魅力的に写らなかった。恐くないというのではなくて、現実的に考えれば無軌道な暴力的人間でしかも武器を持っているとなればこの世で最も恐ろしい類いの人間である事は間違いない。しかし物語の敵役として魅力的かどうかはそれと別問題。どうもケイスを始めサイラスをしる登場人物が彼のことをヤバいヤバいというわけなんだが、あまりにヤバいっていうもんでなんかハードルがあがったのかこちらとしては逆に妙にさめてしまった。結果は麻薬密売業者じゃん?という感じ。彼は左手の小道(元の英語Left Hand Pathは左道という意味。)というカルトの教祖をやっているんだけど、申し訳程度に五芒星を用いるくらいで、あとは銃を片手に気に入らない奴は打ち殺し、攫って来た若い男女にセックスやレイプを強要。まあ確かに残虐非道なんだが、人間の基本的な欲求をブーストさせただけで逆に言えば結果極めて人間的なのだ。いわばたがは外れているんだろうが、私からするとただのいじめっ子の行動原理で、特にサタニストとしての哲学や教示や信仰はなくてただお洒落でヤバそうなんで五芒星を用いてます、って感じにしか写らなかった。もうちょっと人間を超越する様なぶっ飛び加減を期待したいところ。

私はちょっと合わなかったけど、読ませる良い小説ではあると思う。
いかれたジャンキーどもが殺し合う、そんな小説が好きな人は、ちょっと癖があるので本屋でパラぱらっとめくって波長が合いそうでしたら是非どうぞ。

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