2014年11月23日日曜日

虚淵玄+大森望編/サイバーパンクSF傑作選 楽園追放rewired

今をときめく売れっ子脚本家の虚淵玄さんが新作映画「楽園追放」を公開するにあたり影響を受けたサイバーパンクSFの名作をまとめたアンソロジー。
私は虚淵玄さんの作品はちゃんと見た事が無いんだけど(サイコパスというアニメも始めは録画してたけど途中で録画に失敗してしまって見てないというていたらく。)、なんといってもウィリアム・ギブスンの「クローム襲撃」が収録されているので買ったのだ。サイバーパンクと言えばギブスンの「ニューロマンサー」であろう。かの攻殻機動隊にも影響を与えたとかなんとか。かくいう私のHNである冬寂もこの名作に登場するAIから取ったもの。ところがギブスンの本というと「ニューロマンサー」をのぞくとほぼほぼの本が絶版という残念な状態。「クローム襲撃」というのは名作と誉れ高い短編で同名の短編集があるのだが、こちらも絶版な訳で、これが読めるとなれば買うしか無い。
サイバーパンクのアンソロジーだが、サイバーパンクって何だろう。個人的には貧富の差が激しくて、”ネット”が発達して機械化された脳が直結した世界観がイメージされるけど、最後の解説で大森望さんが結構明快に定義を説明してくれている。
抜粋すると
  • コンピューターやネットを扱っている
  • 反体制
  • 情報密度が高い
  • 身体の改造
  • 時代の最先端
とのこと。なるほど!結構曖昧というか広義のニュアンスめいたところがあって、なんとなく上記に該当すればサイバーパンクってことで良いみたい。ということでこのアンソロジーにも色々なサイバーパンク作品が収録されている。

特に気に入った作品をいくつか。
ウィリアム・ギブスン/クローム襲撃
念願のクローム襲撃。一言で言うと青春小説。「ニューロマンサー」と共通のハードでナードな世界観だが、主人公のジャックとその相棒ボビイ、ボビイの彼女のリッキー、その3人の関係が青くて良い。ジャックもケイスと同じカウボーイだけど、ケイスはやはりハードボイルドだった。ジャックはケイスよりまだ若くてハッキングも生活のためというよりは知的好奇心とヤバいことに顔を突っ込みたいという”若さ”が強調されているようだ。3人の結末はいかにもオタクっぽいとひょっとしたら揶揄されるかもしれないが、個人的にはなんとも胸に残る様なストレートな感情表現はすごく良かった。超満足。短編集も重版してくれー。

大原まり子/女性型精神構造保持者 メンタル・フィメール
完全にいかれたAIが統治する未来都市で狼少年が逃避行を繰り広げるというSFというよりは未来のおとぎ話のような世界。ポップなアニメを見ている様なイメージで、ハードさはない極彩色の悪夢を見ている様なファンシーさと気持ち悪さが絶妙に混ざり合った空気は独特。

チャールズ・ストロス/ロブスター
現代情報社会の申し子の様な既成の社会体制にとらわれない男が婚約者(変態)と一悶着を起こしながらも、ネットに転写されたロブスターの意識を宇宙に亡命させる話。
何事?と思われるストーリーだが気になる人は読んでほしい。面白いのは最先端を行き過ぎて夢想家になった男と旧体制的でありながらも現状に足がついた婚約者とのやり取りで、始めは男の方に大賛成でなんてクソな(失礼!)女だ、と思っていたけどよくよく読んでみるとどんなに窮屈で欠陥のあるシステムでも生活を回すためには決しておろそかにできないな…と考えさせられた。あくまでも軽いノリが良い。IT業界で働いている人にはこのテキトーなノリ、よくわかるんじゃないだろうか。

というわけで解説でも述べられていたが、サイバーパンク作品というのは結構絶版になっている昨今であるようだ。そんな中手っ取り早くサイバーパンク作品を読みたいというのであればうっってつけの短編集では無かろうか。とりあえずギブスンを!という人も買ってしまって良いと思う。

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